秘密の夏。それを恋と呼ぶなら。
「ねえ。光輝くん。そこにいる?」

 彼女が呼んだ。心なしか声に力がない。

「います。ここにいます」
「来て。こっちへ来て」

 呼んでくれた。部屋に入り、いそいそとベッドのそばへ行く。彼女は毛布を被って顔だけを出していた。いつもよりも唇がちょっと白っぽい。

「具合が悪いの?」
「うん。ちょっと」

 血圧が、と言った。毛布がごそごそ動いたと思ったら、彼女の手が現れた。腕を掴まれ

「そこに座って」
「ここに?」
「そう。ベッドの端に。立っていたら疲れちゃうでしょう」

 そんなことはないって胸を張る。意味のない虚勢だ。彼女に見つめられたら、僕のくだらない強がりはあっけなく消えた。ベッドの端っこにおとなしく腰を下ろす。

 手は握られたままだ。どきどきしてくる。何か言うべきなのか、彼女はおしゃべりをしたいのかどうなのか。そういえば、普通の会話をしたことがなかった。
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