秘密の夏。それを恋と呼ぶなら。
「沙耶さんと離れたくない」
「…」
「沙耶さんが好きなんだ」
「…」
「だからそばにいたい」
「…」

 彼女は何も言わなくなってしまった。その沈黙に不安が増す。

「僕はここに残るよ」
「…」
「お母さんだけ行けばいい。だから」
「そんなこと無理よ」
「どうしてさ」
「いつか…」
「いつか?」
「いつか必ずお別れのときが来るの」
「いやだ」
「光輝くん」
「いやだよ」
「いつか…光輝くんはわたしを忘れる」
「そんなことない!」

 だめと言われたのを忘れ、彼女の肩を抱きしめた。

「もっと大きくなったら、光輝くんにも彼女ができたらね。わたしなんか忘れてしまう」

 なんでそんなことを言うんだ。悲しい声で、なんでそんなことを。

「絶対に忘れないよ。大きくなっても大人になっても、僕は沙耶さんを絶対に忘れない」

 すると、彼女の口から、不思議な、歌のような詩のようなものが流れ出した。
< 39 / 50 >

この作品をシェア

pagetop