秘密の夏。それを恋と呼ぶなら。
忘れじの…
涙混じりに母を問い詰めたところ、母は驚いた顔で、沙耶さんが僕に話したことを事実であると認めた。
「どうしてさ。僕はここの学校に転校すると思っていたのに」
「光輝にちゃんと言っていなくてごめんなさいね」
「なぜなの。どうしておじいちゃんの家に行くの」
すると母は、その方がいいとか、おじいちゃんの家に移った方が友達ができるとか、理由にならない理由を言った。ぜんぜん納得できない。
ここに残る、お母さんだけ行けばいいなんて駄々をこねてみたものの、まだ小学生の自分が大人たちの決定に逆らえるはずがない。
ゆったり流れていると思っていた時間は急に加速度を増し、慌ただしく過ぎていく。ずうっと開いていた彼女の部屋のドアは固く閉じられてしまい、僕がノックしても返事もしてくれない。沙耶さんの顔を見ることもできなってしまった。