秘密の夏。それを恋と呼ぶなら。
 彼女は、部屋の向こう側にある開け放った窓から庭を眺めていたり、窓に向けて置いた椅子に座って本を読んでいたり。読んでいたのは参考書かもしれない。覗いている僕に背を向けていたから、よく見えなかった。

 広い芝生とひまわりが咲いている庭で、蝉の声を聞きながら遊んでいるときに、ふと、視線を感じることがあった。振り返って視線の元を探す。するといつも、二階の窓から彼女が僕を見下ろしていた。僕が気づいても彼女は目を逸らさない。逸らすのはいつも僕のほうだ。

 家の廊下で、庭で、どこかで彼女とすれ違うと、彼女は必ずじっと僕の顔を見つめてきた。見つめられるとどきどきしてしまい、顔が熱くなって、僕は彼女と目を合わさないようにした。だから僕がゆっくり、彼女を、その姿を眺められるのは、彼女の部屋をこっそり覗いているときだけだった。
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