秘密の夏。それを恋と呼ぶなら。
 ある日の、よく晴れた日の午後のことだ。いつものように僕は彼女の部屋を覗いていた。しんとした廊下を風が抜けていく。母は朝から出かけていて、伯父さんもいない。一階に伯母さんがいるけれど、テレビでも見ているのか、休んでいるのか。遠くから蝉の声が、彼女の部屋の、大きく開け放った窓の外から、風に乗って入ってくる。

 椅子の背もたれと彼女の髪と肩。白い腕。髪が風に揺れる。白いスカート。白い足。裸足だった。

 僕は彼女を見つめる。見つめ続けた。彼女は動かない。

 何をしているんだろうと、ふと思った。本は読んでいないようだ。庭を眺めるときは、窓辺に立っている。今は椅子に座っている。さっきからずうっとだ。窓に向いて座ったままだ。
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