秘密の夏。それを恋と呼ぶなら。
 具合が悪いのかなと思った。声をかけようかどうしようか。具合が悪いのなら伯母さんを呼ばなくては。でも、何か違う。これは、そういうことじゃない。そうじゃないんだ。

 当時の僕は、まだ何も知らない子どもだった。子どもでも、自分が何を見ているのか、何が起きているのか、いったい彼女は何をしているのか、わからないながらも、本能的にそれを悟った。

 伯母さんを呼ぶのはやめた。廊下に立ち、ドアの隙間から、僕は固唾を飲んで見つめ続けた。彼女の手と白いスカート、剥き出しになった白い膝とふくらはぎ、わずかに見える白い太ももを見ていた。

 どれぐらいそうしていただろう。彼女の肩がビクッと、そして動きが止まった。そのまま動かない。はあ…という、ため息が、蝉の声に溶けていった。

 喉がカラからに乾いていた。彼女に気づかれる前に、僕はその場から離れた。

 ジーンズの前が張り詰めていた。足を動かすと生地が擦れて痛かった。だから、そうっと歩いた。僕のそこは、これ以上ないほどに固くなっていた。
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