「好き」と言わない選択肢
変わっていく事……

「こんばんは」

 もんたの扉を開けた

「おかえり」おじさんと、おばさんの声が同時に響いた。

 カウンターの一番奥の席に鞄を置き、飲み物を取りに入った。

「お疲れさま。焼き鳥、少し待ってな」

「うん。ありがとう」

 ジョッキを手にして、カウンターの席に座る。
 相変わらず、おじさんもおばさんも元気で、店も繁盛している。

「ねえ、さっちゃん,拓真が店を出すっていうのよ」

 おばさんが忙しく手を動かしながら、ため息をついた。

「えっ? もんた二号店?」

 拓真も、相変わらずバイト生活を送っていて不安定な生活に、おばさんも心配していた。そういえば最近、拓真兄ちゃんをあまり見かけない。

「違うわよ。BARらしいの」 

「へえー。そんなおしゃれな人間だったかな?」

「このご時世、店やっていくって簡単な事じゃないのに…… あの子は分かっているんだか?」

「分かってなんかいるもんか! 絶対、援助はするなよ。一人でやってみりゃいい!」

いつも愛想のいいおじさんが、珍しく声を出して怒っている。この時は、拓真兄ちゃんが決めた事なら、別にいいんじゃないかとぐらいにしか思っていなかった。

 ガラガラと店のドアが開いた。

「いらっしゃいっ あら?」

 おばさんの声が店に響く。あらっ、と言ったのは、知り合いでも来たのだろうと思っていた。

 隣の席の椅子を引く音がして、今入って来た客が座るのが分かった。

「何しているんだ? 今夜、俺の歓迎会だったんだけど……」

 この声?

 なんか嫌な予感がして、ゆっくりと顔を上げた
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