【電書化・コミカライズ】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
「フリッカ」
「は、はいい!」
「……そう緊張しなくても、なにもする気はないよ」
「……へ?」

 フレデリカが玄関をくぐってすぐの場所から動くこともできず、ぷるぷるしながら立ち尽くしていたからだろうか。
 シュトラウスは、彼女を安心させるように黒い瞳を細めた。

「今晩は、きみと一緒にいることができればそれでいいんだ。だから、そう怯えなくていい」

 これは、シュトラウスの本心だった。
 ただただ、愛しい人と共に過ごしたい。
 共に眠り、フレデリカを抱きしめることができれば、それで十分だった。
 そのはず、だったのだが――。

「……なにも、しないの?」

 頬を染めた彼女が、上目遣いにそんなことを言うものだから。

「っ……!」

 どこか期待しているようにも見えるフレデリカの態度に、シュトラウスは苦悩した。
 
 彼女は怖い目にあったばかり。
 今晩はなにもしないと決めていたし、アルフレドともそう約束した。
 けれど、もし、本人が望むなら……?
 いやダメだ。今日一日の負担が大きすぎる。
 絶対に、絶対に、絶対に! 今晩は手を出さない!

「くっ……ううっ……」

 ぎりりと奥歯をかみしめ、謎のうめき声をあげるシュトラウス。
 彼の中で、激しい戦いが繰り広げられる。
 そんな年上婚約者の姿を、フレデリカは不思議そうに見つめていた。
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