【電書化・コミカライズ】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 元々、シュトラウスはこの婚約に乗り気ではなかった。
 だから、会ってみてどうしても無理だと思えば、王女のほうから嫌だと言うよう仕向けるつもりだった。
 自分に拒否権がないのなら、相手に嫌だと言わせればいいのだ。
 王女に嫌われるための、問題にはできない範囲の意地悪なんかも考えていたのだが、今のシュトラウスにそれらを実行に移す気はなかった。
 それどころか――。

「シュト、ラウス……ストレ、ザン……」
「シュウ、で構いませんよ」

 今しがた聞いたばかりの名を復唱するフレデリカに、こんなことまで言う具合である。
 ゆっくりと、どこか言いにくそうにしていたものだから、ついつい、愛称呼びを提案してしまった。
 フレデリカのほうはといえば、少しの間をおいてから、

「シュウ」

 と、初めて見せる笑みとともに、シュトラウスの愛称を口にした。
 鈴を転がすような、とはこういうときに使うのだろう。
 澄んだ声に、柔らかく細められた青い瞳。
 とろけるような愛らしさを前に、シュトラウスからも自然と笑みがこぼれた。

「はい。フレデリカ様」
「……フリッカ」
「え?」
「フリッカって、呼んで?」

 庇護欲をかきたてる少女に、こてんと首を傾げられ、そんなお願いをされてしまったら。
 既にフレデリカが可愛くてたまらないシュトラウスは、彼女の要望を聞き入れ、初めて会ったその日に王女を愛称で呼ぶようになった。
< 6 / 183 >

この作品をシェア

pagetop