【電書化・コミカライズ】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 初日からこんな状態だったものだから、破談になどなるわけもなく。
 二人の婚約の話は、とんとん拍子に進んだ。
 シュトラウスはフレデリカを可愛らしいと思ってはいたが、恋愛感情ではなかった。
 シュトラウスは12歳で、フレデリカは5歳。抱く感情の種類は、幼子や妹に感じるもの。
 しかし、そんなことは問題にはならなかった。
 そもそも、王侯貴族の結婚では恋愛感情は重視されないからだ。
 妹に向けるような感情であっても、可愛い、と思えるだけで十分であると言えた。

 また、シュトラウスの中には、彼女を哀れむ心も生まれていた。
 彼女が側妃の娘であることは、皆が知っている。
 今は、正妃との間に二人の男児がいることも。
 フレデリカはきっと、幼いながらに、いや、幼いからこそ、自分が複雑な立場であることを敏感に感じ取り、内気になってしまったのだろう。
 第一王女であるというのに、あの自信のなさと気弱さだ。
 彼女の立場の危うさが本人を蝕んでいることは、シュトラウスにも感じ取れた。
 こんな年齢で婚約者を決められてしまう、不憫なフレデリカ。
 シュトラウスは、自身もまだ少年ながらに、この幼い王女様を守りたい、笑顔にしたいと思った。

 だから、婚約が決定したとき、シュトラウスは彼女にこう言った。

「フリッカ。俺のことは、兄だと思ってくれていい」
「あに?」
「ああ。きみの、お兄さんだ」
「……じゃあ、シュウにいさま?」
「うん」

 フレデリカの青い瞳が、ぱあっと輝く。
 婚約と言われてもピンとこない、可愛らしい、幼い女の子。
 婚約者よりは、兄と妹のほうがまだわかりやすいだろうと、シュトラウスは考えたのだ。
 その通りだったようで、フレデリカは「シュウにいさま」と繰り返して嬉しそうにしている。
 シュトラウスとフレデリカは、兄妹。今はこれでいいのだ。

 以降、正式に婚約が結ばれてからも、二人は仲のいい兄妹のように過ごしている。
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