【電書化・コミカライズ】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
「ねえきみ、一人なの?」
「へ?」

 酒場の空気感を楽しんでいたフレデリカの前に、突如、一人の男が現れる。
 もちろん驚き身を固くしたが、相手の男性が柔和な笑みを浮かべていたから、ひとまず敵意はないと判断した。
 こういった場だから、酔っ払った乱暴者が声をかけてくる可能性も、十分にある。
 目の前の男は身なりも綺麗で穏やかな雰囲気をしており、酔って暴れるに人間に比べればまだ安心できそうだった。

「この辺り、治安はそんなに悪くないけど……。女性一人は危ないよ? ツレはいないの?」

 優しい声色だった。
 どうやら彼は、夜の飲み屋街で一人食事をつつくフレデリカを心配してくれたようだ。
 店員の人数確認に対しては一人だと答えたが、見知らぬ男の客に対してそう言い切るのは、少々はばかられる。
 良心からの質問だとしても答えられなくて、黙ってしまった。
 一人だと改めて指摘されたことで、城を勝手に抜け出した罪悪感や一人ぼっちの心細さも生まれ、フレデリカは俯く。
 下を向いてしまったから、フレデリカは気が付かなかった。男の口角が、いびつに弧を描いたことに。

「ご一緒してもいいかな? やっぱり、一人だと危ないしさ。男が一緒だと思わせれば、少しは絡まれにくくなると思うよ」

 そう言いながら、男はフレデリカが頷く前に正面の席に座る。
 にこにこと人好きのする笑みを浮かべながら、あまりにも自然に、フレデリカのためを思うような言葉とともに座られてしまったものだから、嫌だとも言いにくく。
 成り行きで、見知らぬ男と同席することになった。
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