【電書化・コミカライズ】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
「あれ? 酔っちゃったの?」
「いえ……。お酒は……飲んでいない、はずで……」

 男と話し始めて、どれくらいの時が経ったのだろう。
 なんだか、眠たくて仕方がない。
 夜会のあとで疲れてはいるが、こんな場所で寝てしまうほど呑気な性格はしていない。
 眠気で頭が動かないが、時間だってそこまで遅くないように思える。
 自分で言った通り、酒だって一滴も飲んでいないはずだ。
 なのにどうしてか、眠くて眠くて、もうどうしようもないのだ。
 眠ってはいけないとわかっているのに、強すぎる眠気に抗えなくなっていき……ついに、フレデリカは意識を手放した。



 男は、この時を待っていたのだ。
 上等な服を着た、美しい女。同行者もおらず、一人きり。
 なにか訳があって一人でいることは、彼女が度々見せる歯切れの悪さでわかった。
 おそらく、良家の娘だろう。さらえば身代金を要求できる。
 そうでなかったとしても、これだけの美しさなら、売り飛ばしたとき結構な金になるだろう。
 最初から、フレデリカを眠らせてさらうつもりで近づいたのだ。
 彼女が警戒をゆるめたタイミングで視線をそらし、飲み物に薬を混入させていた。

 ようやく実行のタイミングを迎えた男は、心配をするふりをしながら席を立ち、フレデリカに触れる。
 頬に手を滑らせても、彼女は「んん……」と声を漏らすのみ。
 あくまでも親切をよそおって、男はフレデリカを抱えようとし――彼女を持ち上げる前に、その動きをとめた。
 今まさに誘拐を行おうというとき、テーブルに影が落ちたのである。
< 63 / 183 >

この作品をシェア

pagetop