【電書化・コミカライズ】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
「その人に、なにをしている」

 背筋がひやりとするほどに、暗く冷たい声だった。
 おそるおそる顔をあげると、そこには、黒い髪をした長身の男の姿が。
 同性が見てもわかるほどの美形なうえに、鍛えているのか体格もよい。
 服装も、明らかに一般の人間ではない。まるで、高位貴族がパーティーから抜け出してきたような格好をしていた。
 そんな男が、殺気をまとって自分を見下ろしている。
 蛇に睨まれたカエル。そんな表現が似合う状況だった。
 あまりの威圧感に、フレデリカをさらおうとしていた男は怯んだ。

「あ、あー……。酔って寝ちゃったみたいだから、介抱してたんですよ。彼女のお連れさんですか?」
「……それはおかしいな。彼女は、酒は飲まない」

 一段と低くなる声に、鋭い眼光。
 まとう雰囲気もさらに重いものとなる。
 恐怖から、男の喉がひゅっとなった。
 この黒髪の男は、誘拐対象の彼女のことを知っている。
 そしてさらには、眠らせてさらおうとしたことも、おそらくもうバレている。
 たしかに、彼女は一滴も酒を飲んでいなかった。男の言う通り、普段から飲酒はしないのだろう。
 なのに「酔って寝てしまった」と話してしまった。
 自分のついた嘘は、もう見破られている。
 殺されると錯覚するほどの圧を放つ男に見つかり、誘拐計画は失敗した。
 ここから計画を成功させるなんて、絶対に無理だ。
< 64 / 183 >

この作品をシェア

pagetop