【電書化・コミカライズ】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 立食形式のパーティーにて。
 自由時間を得たフレデリカは、若い貴族男性に声をかけた。
 今までの王女然としたものとは違う無邪気な笑顔に、相手の男はにわかに頬を染める。

「い、いえ。自分のような者に話しかけていただけるなんて、光栄です。こちらの飲み物は、ストレザン領のりんごをふんだんに使ったものだそうで……」

 フレデリカは、男の言葉をうんうんとにこやかに聞いていた。
 説明を終えた男は、あちらで配っているとある方向を指し示した後、フレデリカの許可を得てから彼女の分のジュースを受け取ってきた。

「ありがとう」

 みなの憧れの王女のふわりとした笑みに、男も照れを隠せない。
 フレデリカに話しかけられた男たちは、みなこんな調子になる。
 王女として、この男性がどこの誰であるかぐらいは知っているが、別に、この人のことが好きなわけでも、今すぐ誰かとどうこうなりたいわけでもない。
 
 これまで控えていた分、他の異性と話してみたかった。
 そうしていく中で、誰かのことを好きだと思えるようになって、良好な関係を築くことができたらいいなと思う。それくらいの気持ちだった。
 特別な感情を抱く相手はまだいないから、二人きりになることはなかったし、話す内容だって、雑談の域を出ない、取るに足らないものだった。
 フレデリカとしては、少しだけお話しした。それぐらいのつもりだった。


 しかし、相手の男性がみな、同じように受け取ってくれるとは限らない。
 多くの人は、王女に話しかけられたこととその美しさに驚き、もしかして俺に気があるのかな、と願望と冗談交じりに考えて「ないない」で終わりにするぐらいだったが、それでは済まない者もいた。


 婚約者一筋だったはずのフレデリカが、話しかけてきた。
 素に近い、愛らしい笑顔を向けてくれた。
 密室でもない場所での、ただ一度きりの会話で、自分は特別なのでは、婚約者を押しのけて選ばれたのでは、という考えを肥大化させていく者がいた。
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