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第三章 波紋
『そんなバカな話は聞いた事がない』

黒沢竜二は警察庁の執務室で呟いた。

『君、現実に起きている事態だよ。最初からお手上げだ。なにしろ、各銀行の金庫室から金が忽然と消えるんだからな…。被害総額は既に60億円を越えている…。にも関わらず、証拠は一切残っていないんだからな』

副庁官の三枝が眉間にシワを寄せながら溜め息をつく。

黒沢は昨夜自宅のマンションの自室で、予め報告書に目を通していたが、到底信じられなかった。

警視庁から送られて来た報告書である。
事態が事態だけに、極秘事項ではあるが、マスコミが嗅ぎつけるのは時間の問題に思えた。

報告書の概要は奇怪だった。

厳重且つ高度なセキュリティーで管理されている都市銀行の金庫室から、現金が消える現象。警視庁捜査本部が疑うまでもなく、銀行自体が内部犯行を疑ったが、銀行の金庫室は、全てタイムロックであり、支店長といえど、一度封鎖されたロックは解除出来ない仕組みだ。セキュリティーの誤作動が、それぞれの銀行で報告されているが、駆けつけた警備員は異常を発見出来ていない。防犯カメラにも異常は無い。
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