幼なじみのハイスペ若頭が結婚を諦めてくれません。


「鏡花が大切にしているものがどんなものなのか、この目で確かめたくなったんですよ」

「那桜……」

「何となくわかった気がします。みんな人の役に立とうという気持ちが強くて、義理人情に熱くて。
川掃除の時は驚きました。見るからにヤクザが混じっているのに、誰も怖がらず好意的で」

「それは毎年のことだから、みんな慣れてるだけだよ」

「でも、あんなに温かい空気があるんだなと思いました。あの環境の中で育ったから、今の鏡花があるんですね」


 なんかそんな風に言われると、照れ臭いな……。


「ますます惚れ直しました」

「や、やめてよ……!」

「なんでですか?」

「ちょっ、この手は何!?」


 さりげなく腕が首元に回ってエアハグされてるんだけど……!!


「お嬢はどうですか?」

「な、何が!?」

「俺頑張ったんですけど。お嬢のために」

「っっ!」

「惚れ直した?」

「ひゃ……っ」


 み、耳元で囁かないで……っ!!
 息がかかってゾクゾクする――。


「や、やだ……っ!」

「……」


――かぷ。


「〜〜っ!?!?」


 み、耳たぶ甘噛みされた……!?

 声にならない声と若干涙目の視線で訴えるけど、むしろ逆効果でしかなくて。


「……かわいい」

「もう、やだ……」


 恥ずかしすぎて本当に死にそう――。


「すみません、意地悪しすぎましたかね?」

「ばかあ……」


 エアハグじゃなくて、今度はしっかりと抱きしめられた。やっぱりドキドキするのに、どこか安心する。

 そう思った直後だった。


「……どういうことだよ」


 ドアの前で悠生が曇った表情で私たちを凝視していた。

 やばい、どうしよう……?

 悠生に見られちゃった……っ!!


< 100 / 176 >

この作品をシェア

pagetop