好きな事を言うのは勝手ですが、後悔するのはあなたです

8  追い出された!?

「あ、あれ…って、ハック様よね? どうして…? やっぱり、リリンラ様の言う通り浮気してたの…?」

 別に動揺することでもないのだけれど、平民らしき服装の女性と歩いているハック様を見て、ちょっとした恐怖を覚えてしまった。

 何なのあれ?
 
 これから、あなたの子供が生まれてくるのよね?

 それなのに、結婚どころか婚約さえも認めてもらえていない上に、妊娠させた女性とは別の女性と歩いているなんて信じられない…!

「ねえ、ラル…」
「ん?」
「もし、ハック様と私が結婚していたら、私が妊娠中、ハック様は陰でああやって他の女性と遊んでいたのかしら…?」
「……まあ、毎日じゃねぇかもしれないけど、絶対に浮気はしてるだろうな」
「信じられない…」

 今回の件があって、お母様にも話を聞いてみたけれど、奥さんが妊娠している時に浮気するという男性もいると聞いた。
 
 ハック様は、先日のパーティーの時に醜態をさらしたせいで、貴族の女性には相手にされなくなっているだろうから、平民の女性を狙ったのかしら?

 そこまでして、女性と一緒にいないといけない理由って何なの!?

「おい、今日は友達の誕生日プレゼントを選びに来たんだろ? あいつの事は気にすんな」
「そ、そうね…」

 外を見ると、ハック様達の姿は見えなくなっていたので、余計な事は考えずに、ミーファへの誕生日プレゼントを選ぼうと考えた時だった。
 
「アンジェ!!」

 聞き覚えのある声が聞こえて、びくりと体を震わせると、ラルが私の目の前に立って、私の名を呼んだ声の主から見えない様に隠してくれた。

「おい、邪魔だぞ! 僕はアンジェに話があるんだ!」
「もうあんたは婚約者じゃないだろ。アンジェに近付くな」

 静かだった店内にハック様とラルの声が響く。

 後ろを振り返ると、お店の人が驚いた表情で私達を見ているのがわかった。

「ラル、店の人や他のお客様に迷惑だわ。外に出ましょう」
「……」

 ラルは私の手を取ると、ハック様に言う。

「扉の前に立ってられても、他の人に迷惑だから退け」
「うるさいな、どうして君に指示されないといけないんだ!」
「他の人にも迷惑だって言ってるだろ」

 ラルが今までに聞いた事のないくらい低く冷たい声で言うと、ハック様は気圧されたのか後ろにさがり、道をあけてくれた。

「この事は報告させてもらうからな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 ラルの後に付いて外に出ようとした私の手をハック様がつかもうとしたけれど、ラルがあいている方の手でハック様の手をつかんでひねり上げた。

「アンジェに触れようとするな」
「いででで!!!」
「うるせぇな、静かにしろ」

 ラルは私の手をはなし、ハック様の腕をつかんだまま、彼を店の外に引きずり出した。
 すると、先程、ハック様と腕を組んで歩いていた女性が店の前で立っている事に気付き、ラルは彼女に向かって言う。

「こいつ、他にも女がいるぞ」
「ちょっ! あっ!」 

 ハック様は慌てた顔をして、ラルと女性の顔を見た。

「他にも女…? どういう事ですか?」

 女性が聞き返すと、ラルは私とハック様の方を見てから口を開く。

「彼女はこの男の元婚約者だったんだが、この男が彼女のクラスメイトと関係を持って、その女性に子供が出来たから婚約破棄になった。で、相手の親に、そんなふしだらな奴に娘を任せられんって言われて、今は子供が出来た相手とも会えない状況。…というか、お前、家から見捨てられたのか?」

 ラルに尋ねられたハック様の顔色が一気に悪くなった。
 私も思わず聞いてしまう。

「まさか、ハック様。お家から縁を切られたんですか…?」
「う、うるさい! そんな事はどうだっていいだろう!」
「どうでも良くないです! あなたがそうやって浮気ばかりしているから、リリンラ様は私とあなたが浮気してると思い込んでるんですよ!?」
「ちょっと、ハック! どういう事なの!?」

 私の言葉を聞いた女性が、ハック様に詰めより、彼のシャツの襟首をつかんで言う。

「私を騙してたの!?」
「い、いや、その、騙してなんか…」
「自分は今、親と喧嘩していて帰りづらい。時が経てば親の怒りもおさまるだろうから、すぐにお金を返せるって言って、散々、私の家に寄生しているわよね!?」
「え? あ、…そんな話だったかな?」
「そんな話だったかなじゃないわよ!」

 女性は叫ぶと、持っていたハンドバッグでハック様の顔と頭を殴った後、「この最低男!」と叫ぶと、人混みの中に紛れていく。

「ちょっと待ってくれ! 今、お前に捨てられたら、僕はどこに行ったらいいんだよ!」
「どこかで野宿でもしろ!」

 女性から反応は返ってきたけれど、それはもう冷たいものだった。

 自業自得だし、そう言われても仕方がないと思うけれど。

「行くぞ」
「あ、うん」

 ラルに促されたので首を縦に振ると、ハック様が叫ぶ。

「アンジェ、待ってくれ! 表沙汰にはされてないが、僕は伯爵家から追い出されたんだよ!」
「それがどうした。野宿頑張れ」

 ラルは私の代わりにそう答えると、無意識なのか、それともハック様への当てつけなのか、私の手を握って歩き出した。

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