ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。

ロスメルの茶会

 相談場所の目処がついたならば、あとは人脈を広げて行くだけね。
 過保護なディミオはまずは王城で働いている人々からだと私に条件を出してきたけれど、誰にも相談できずに苦しんでいる哀れな子羊は、貴族のご令嬢が殆どなのよね。

 領地に縛り付けられ満足に外へ出られない令嬢たちを誘い出すには、お茶会がもってこい。
 ミスティナとしてデビュタントの経験がない私がある日突然お茶会を開催するのも変な話だし、ここはロスメルの出番ね。
 ロスメルに頼むと、哀れな子羊を虐げる羊飼いが山程やってくるから、できればご遠慮したいのだけれど。哀れな子羊と人脈を結ぶ為の練習だと思えばいいわ。

 私はロスメルに、ある願い事をした。
 それは──。

「ロスメル様の茶会に、よく顔を出せたわね」

 ロスメルにお茶会を開いて貰うこと。
 親友の彼女は嫌な顔ひとつせず茶会を開いてくれたけれど、茶会に招待された令嬢たちが問題だった。

「皇太子妃と呼ばれるのは、ロスメル様なのに……!」
「茶会のホストよりも絢爛豪華なドレス姿のゲストなんて、聞いたことがありませんわ」
「これだから、デビュタントすらまともに出席したことのないご令嬢は」
「今日がはじめてのデビュタントなのでしょう?きっと、ご存知ないだけですわ」

 このお茶会には、ロスメル派を表明する廃太子の派閥が8割を占めているようね。
 ロスメルが上辺だけの交友を、廃太子の派閥だけと済ませているのは折り込み済み。

 今日の目的は、廃太子の派閥をまるごとディミオの派閥に引き入れるか──それができそうになければ、悪党共として二度と社交場へ足を踏み入れられぬように、痛い目を見せることだわ。

 私は早速、ミスティナ・アルムとして行動を開始した。

「皆様、ドレスを気に入ってくださり、ありがとうございます。このドレスは殿下が、私のためを思って誂えてくださったドレスですのよ」

 私が選んだドレスをセンスがないと批判し、それに傷つけば──私は社交界の笑われ者だけれど──私が着ているドレスが、殿下の選んだドレスなら。非常識と笑われるのは、ご令嬢達の方だわ。
 私が勝ちを確信して微笑めば、私のドレスを批判してきたご令嬢は、わなわなと震えた。
 まぁ、そうなるわよね。ディミオが選んだドレスを批判したんですもの。彼の耳に入ればどうなるかなど、火を見るよりも明らかよね。
 沈黙の皇子が星空の女神を愛していることは、誰もが知る事実ですもの。
 私を寵愛しているディミオ自ら、私に似合うからと自信満々に着せたドレスよ?
 批判されたことが彼の耳に入れば──震え上がるほど恐ろしいことになると、決まっているわ。

「おほほ、ど、通りで素晴らしい出来だと思いましたの!」
「どちらで仕立てたのかしら?」
「ぜひ私達に、仕立屋をご紹介してくださらない?」

 令嬢達は自分たちのミスを取り返そうと、口々に私を褒め称えた。
 先程私のドレスを馬鹿にしたことは、一生忘れないわよ、と。
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