ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 皇太子妃に粗悪品のドレスを仕立てる仕立屋を紹介して、恥をかかせようとしたんでしょうけれど──領地の外へ一歩も出たことがない病弱な箱入り娘だって、頭は回るのよ。
 ごめん遊ばせ?

「皇太子妃として、これから相応しい知識を身につけられるように精進していくわ。皆様。これからよろしくお願い申し上げます」

 私とロスメルが見つめ合う姿を見たご令嬢達の反応は、二極化している。
 感動で瞳を潤ませるもの、悔しそうに唇を噛みしめるもの。
 こうもくっきり明暗が別れると、楽でいいわね。
 後でリスト化して、いつでも見られるようにしておかないと。

「ツカエミヤ、帰るわ──」
「み、ミスティナ様!?」

 廃太子派に恥をかかせてある程度満足した私は、侍女のミスティナを呼びつけ、帰り支度を始めるように告げた。

 ツカミエヤが大声を上げたのには理由がある。
 従者のアーバンが無言で私に歩み寄ると、力強く抱きしめたからだ。

 従者は今まで、私に指一本触れることなどなかったのに……なんだか妙だわ……。

 ツカミエヤの悲鳴を聞きながら、強く抱きしめられた胸元から逃れようと、胸板を強く叩き──耳元で囁かれる声を聞いて、それが従者ではないことに気づいた。

「ミスティナ」

 ああ。通りで。おかしいと思ったわ。
 従者は私に恋愛感情など抱いていないから、私をこうして力強く抱きしめる訳がないもの。二人の顔達はよく似ているから、その気になればいくらでも入れ替われる。

「ディミオ?」
「ひえ……!?」

 私が胸元を叩くのを止めれば、ツカミエヤから悲鳴が上がった。
 従者とディミオが入れ替わっているなど、思いもしなかったのでしょう。
 震え始めたツカミエヤへ静かにするよう告げた私は、首元に顔を埋めたディミオの頭を安心させるように、優しく撫で付けた。

「公務はどうしたの?」
「ミスティナが、デビュタントだと聞いて……」
「従者に押し付けたのね」
「心配だったんだ!案の定、酷い扱いを受けていたじゃないか。許さない。おれの選んだドレスを着こなすミスティナに、似合ってないと心無い言葉を掛けたあの令嬢たちは、皇太子権限を使って二度とミスティナには会えないようにするから」

 ディミオが私に会わせないよう手を回さなくたって、彼女たちは私に会おうとしないんじゃないかしら。
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