ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 ロスメルと一緒に、痛めつけてあげたもの。
 次に社交場へ姿を表した時は、社交界の笑われ者になっているわ。
 恥ずかしくて、ほとぼりが冷めるまでは表舞台になど出てこないでしょう。

「ドレスを馬鹿にされた時……よく我慢したわね。偉いわよ、ディミオ」
「ご褒美に、口付けてほしい」
「頬なら良いわよ」
「おれは唇が……」

 恨みがましく見つめてくるディミオの視線から逃れるように頬に口付ければ。
 それだけでも、しないよりはマシだと満足してくれたみたいね。
 私は大人しくなったディミオに抱きしめられたまま、自身の頬に手を当て、瞳を潤ませる彼を見上げた。

「ミスティナから、おれに口づけをしてくれる日がくるなんて……!おれはもう二度と、顔を洗わない……!」
「汚いわ。ちゃんと洗って」
「洗ってしまったら、ミスティナの口付けた跡が消えてしまうだろ!?」
「頬に口づけるくらいなら、何度だってしてあげるわよ」
「本当に!?」

 それほど喜ぶようなことかしら。
 頬に対する口づけなんて、挨拶代わりに行われることが多いと聞くわ。
 愛していなくたって、頬にならいくらだって口付けられるのに……。

 頬からはじめて習慣づければ、いつか唇も夢ではないと、想像を膨らませているのかもしれないわね。
 困った旦那様ですこと。

「で、殿下……っ。恐れながら申し上げます……!アンバー様の姿では、ミスティナ様の悪評に繋がりかねません……!」
「ああ、そうだった。ミスティナ、早く戻ろう。二人きりになって、たくさん愛し合おうね」

 ディミオの口からたくさん愛し合おうなんて言われたら、違った意味に聞こえるわ……。
 自分で自分の首を締めてしまう気がして、私はディミオの言葉に頷けなかった。
< 103 / 118 >

この作品をシェア

pagetop