ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。

ミスティナ・アルムの幸福論

 皇太子妃になってから、暗殺されそうになったことは一度や二度ではない。
 ある意味では、刺激的な毎日を送っているわ。

 私は、囮のようなものね。
 ディミオは私を危険な目に合わせたくなくて、異変があるとすぐに駆け付けてくれる。
 その過保護さが、いつか仇にならなければいいけれど……。

 今回の黒幕、アンエム伯爵とイギトフ卿は、然るべき罰がディミオによって言い渡された。
 私が皇太子妃となってから、王城の浄化作業は恐るべきスピードで進んでいる。
 これも優秀な従者と侍女のお陰ね。

「ミスティナ。相談業は危険だ。やめた方が……」
「ディミオ。何を言っているの?今がチャンスじゃない。哀れな子羊を装って、暗殺に失敗したのよ。同じ手を使うほど、あちらも馬鹿ではないでしょう」

 暗殺未遂事件のほとぼりが冷めるまで、代行業は安全だわ。
 私が哀れな子羊を救うことに意欲を示せば、ディミオは私を強く抱きしめる。
 離れないように、強く。

「おれの目が届かない所で、ミスティナに何かあったらと……気が気じゃないんだ。心臓がいくつあっても足りないよ」
「私が城から抜け出して、ディミオの目が届かない所で細々……代行業を続けていた方がいいの?」
「それはもっと駄目だよ。おれの目が届かない所で仕事をするなんて、許さない」
「今より悪くなることはあっても、今よりもよくなることはないのよ」

 遠回しにないものねだりはやめなさいと、釘を差したつもりだけれど……ディミオは納得した様子がない。
 私にとっては今の状況が素晴らしい現状でも、ディミオにとっては、今が一番悪い状況に見えるのだから。心を通わせるのは、難しいわよね。

「ミスティナ……」

 おれの前からいなくならないでと、ディミオは私に懇願する。
 頼まれなくたって、逃げないわ。

「私は今の生活に満足しているの。だから、大丈夫よ」

 必要以上に、心配しないで。
 あんまり騒がられると、逃げたくなってしまうわ。
 ディミオをからかおうと思ったけれど、彼が可哀想になってやめた。

「ミスティナ様」
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