ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「ツカエミヤ、アーバン。お手柄よ。いつもありがとう」
「と、とんでもないことでございます……!す、素晴らしいのはミスティナ様の方です!哀れな子羊の妹さんが、亡くなっていると、よくわかりましたね……?流石はミスティナ様です!」
「哀れな子羊を騙る捨て駒の、妹が生きてるか、死んでいるか?知らないわよ」
「えぇ……!?」

 ツカエミヤは地獄耳の魔法が使えるだけ。
 アンエム伯爵とイギトフ卿が妹の話をしない限り、真実がわからないのも無理はないわね。
 ディミオは魔法を使えば嘘が見抜けるし、従者のアーバンは心の中がわかる。
 私がいちいち口に出さなくたって伝わるから……うっかりしていたわ。
 きちんと説明してあげないと、ツカエミヤには伝わらないのよね。

「み、皆様ご存知だったのですか!?」
「息をするように嘘をつくから、触れない方がよさそうだと思って。黙っていたんだ」

 ディミオは当然だと笑顔を浮かべ、従者は小さく頷く。
 寝耳に水状態のツカエミヤは、仰天しながらワナワナと震えていた。

「わ、私だけ……。私だけ知らなかったなんて……!ミスティナ様の侍女失格です……!」
「いいのよ、ツカエミヤ。あの場面で、口を挟まないでいてくれただけで助かったわ」

 ディミオはいつまでツカエミヤと話をしているんだと言わんばかりに、抱きしめる力を強める。
 髪を撫でたり首筋に口付けたり、私の気を引こうとディミオは必須ね。
 私はディミオの好きにさせたまま、恐る恐る疑問を口にしたツカエミヤに答える。

「ミスティナ様……どうして嘘を……?」
「やられっぱなしは、癪に障るでしょう」

 なんてことのない顔をしているけれど、私は暗殺されかけた皇太子妃よ?
 私を暗殺しようとしてきた女を、いくら捨て駒だとしても、すべての罪を許して開放するのはプライドが許さないのよね。
 死んでいれば自業自得。
 生きていれば、罪を償った後に姉妹で感動の再会でもすればいいのよ。

「ディミオ。彼女の妹。生死は調べた?」
「生きてはいるみたいだね」
「そう」

 そこで残念と口に出したら、人の心がないと言われそうだからやめておく。

 ディミオの瞳にはミスティナ大好きフィルターが搭載されているから、どれほど過激で非道徳的なことを口にしても、私が可愛くて仕方がないとしか出てこないんでしょうけど。
 ツカエミヤにドン引きされて、侍女を辞められては困るもの。
 口は災いの元って、よく言うじゃない。
 気をつけないと……足を掬われては困るもの。

「ミスティナ……。あんな虫けらのことは忘れて、部屋に戻ろう」
「自室には戻るけれど、ディミオは公務を抜け出してきたのでしょう?公務に戻らないと駄目よ」

 ディミオは私と離れたくないと駄々をこねていたけれど、私は容赦なく彼の腕から抜け出て、ドレスの裾を翻す。

「ディミオ。この後のお仕事も、頑張って」

 笑顔でディミオを送り出せば。
 彼は力なく頷き、不貞腐れたまま執務室へ戻って行った。

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