ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。

「おい、馬鹿。やめろ!」
「あらあら……」
「迷える子羊を救うつもりが、潜入先で正体がバレて大騒ぎにならなければいいわね」

 お兄様は私の腕から回復魔法薬を奪い取ったけれど、一歩遅かったわね。瓶の中身は既に空っぽ。中身はすべて私の体内に吸収されてしまった。

「てめぇがぶっ倒れた後面倒な処理をすんのは、俺なんだぞ……!?」
「第二皇子と婚姻することが逃れられぬ定めなど、お兄様が私に喧嘩を売るからですわ」
「なんでだよ!?関係ねえだろ!」

 お兄様が怒り狂っているのには、わけがある。
 回復魔法薬には、副作用があるのよね。魔力を急速に回復させる代わりに、回復魔法薬を摂取してから半日後を目処に、疲れやすくなったり気分が悪くなったりする。
 回復魔法薬の正しい用法は、一日一本。最低でも三日開けて次の回復魔法薬を飲むよう注意書きがなされているのよね。私はその注意書きを破って、二本一気飲みしている。半日後……早ければ六時間後には、動けなくなってしまう。その前に、急いでけりをつけなければ。

 私が第二皇子の呼び出しを反故にすれば、自らこの辺境の地にやってくるとお兄様は断言していた。

 ミスティナ・カフシー伯爵令嬢は病弱。
 その設定を忠実に再現するためには、自ら具合の悪い状況を作り出した方が手っ取り早いわ。
 哀れな子羊は、今も変態令嬢に怯えて暮らしている。さっさと彼女を断罪して、私に会いに来た第二皇子を具合が悪いと告げて門前払いにするにはもってこいの状況だわ。

「お父様。私とお兄様を、メラルバ公爵家に転移させてください」

 二兎を追うものは一兎も得ずなんて、よく言われるけれど──私は二兎を追いかけたら、必ず二兎とも手に入れるわよ。

 お兄様は無茶だやめろと大騒ぎしているけれど、私はお兄様ではなくお父様はお願いをしているの。お兄様がどれほど大騒ぎしようとも、お父様が転移魔法さえ発動してくれたらこちらのものだわ。

< 14 / 118 >

この作品をシェア

pagetop