ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 さぁ、今がチャンスよ!

「あ……っ」

 私はわざとらしく足が縺れたふりをして、冷めた紅茶が入ったティーカップを人数分トレイに載せたまま、前のめりになる。
 ここで第二皇子が私に手を差し伸べても、変態令嬢が飲むのは冷えた紅茶。何故淹れたてではないのかと怒りで我を忘れ、第二皇子の前で怒鳴り散らすんでしょうね。

 さぁ、第二皇子はどうする?

 変態令嬢を星空の女神と認識していれば、私ではなく彼女を庇う可能性だってあったけれど──彼が変態令嬢を無碍に扱えないのは、公爵令嬢だから。
 ミスティナが星空の女神と呼ばれていた時に、あれだけベタベタと触れてきたんですもの。
 変態令嬢が星空の女神でないことはしっかりと理解しているはずだわ。

「きゃあ!」

 わざとらしい変態令嬢の悲鳴を聞いても、第二皇子は微動だにしなかった。沈黙の皇子と、呼ばれるだけのことはあるわね。
 私は勢いよく地面に転がり、冷えた紅茶を変態令嬢御一行様にぶち撒けた。

「へぶっ」

 放物線を描き、ティーカップが勢いよく地面にぶつかって割れる音がする。
 私は自然な動作で地面に転がるように計算したせいで、うまく受け身を取れなかった。地面にぶつけた額が、ジンジンするわ……。変身魔法を使っている間の痣や怪我は、変身魔法を解除した時にミスティナの身体へ引き継がれるから、厄介ね。
 ツカエミヤが額に痣を作ったことは、第二皇子も目にしている。
 私が変身魔法を使えると覚えていれば、私の正体が露呈しかねないわ。気をつけなければ。

「ツカエミヤ!」

 第二皇子が沈黙の皇子と呼ばれる所以を炸裂させていれば、変態令嬢はツカエミヤを怒鳴りつけた。私は身体を怖がらせ、怯えた表情でゆっくりと顔を上げる。

「第二皇子の前で、何たる無礼を……!」

 鬼の形相と呼ぶに相応しい彼女はワナワナと両手の握りこぶしを震わせ、私を怒鳴りつけた。
 ツカエミヤ本人であれば、今頃地面に頭を擦り付けて謝罪をしている頃でしょうね。弱者を怒鳴りつけることで愉悦(ゆえつ)に浸る変態令嬢の欲望を叶えるのは癪に障るけれど、この場で謝罪をしないのは侍女としてありえない。
 私が慌てて殴られると、目を瞑った時だった。

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