ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 彼と婚約したくない、私としては。
 第二皇子の心を射止める、私によく似た容姿の女性が王城へやってくるのを願う立場だけれど……。
 この変態令嬢が星空の女神と呼ばれ、彼の寵愛を受けるイメージは湧いてこないわね。

 彼女は迷える子羊を数え切れないほど不幸のどん底に陥れた。自分よりも下の人間を罵倒し、転落する姿を見ることで愉悦を感じる変態令嬢には、しっかりと罪を償って貰わなければ。

「ラベルバ公爵令嬢!ごきげんよう」
「ごきげんよう、皆さん」

 王城に到着した私達は、小さなお茶会部屋に案内された。
 丸テーブルには、3人のご令嬢がすでに座り、歓談している。
 変態令嬢が姿を見せた瞬間、表情が強張ったのがリアルだわ。

 彼女は茶会の処刑人として、社交会では時の人。変態令嬢を怒らせれば、社交場で一生後ろ指を刺され続けることになるもの。警戒するのは当然ね。

 この場に集まったご令嬢は、全員が黒髪金目だ。一人一人、彼が思い描く星空の女神であるかを確認するより、こうして複数人を一纏めにした方が、時間効率がいいとの判断をしたのでしょう。
 星空の女神に選ばれなかったご令嬢達も、第二皇子からご指名を受けたもの同士結束を高め茶会で交流を深める。王城へわざわざやってきたことが、無駄にならないよう配慮がなされているとは思わなかったわ。

 誰の提案かしら……?第二皇子?それとも側近?

 沈黙の皇子なんて呼ばれ、無気力無言で空気のように過ごしていたとは思えない手腕に、私は密かに脱帽していた。

 やればできるじゃない。見直したわ。

「第二皇子殿下に、ご挨拶申し上げます」
「うん」

 私が彼を見直していると、従者を連れた第二皇子がお茶会場へ姿を見せた。
 変態令嬢を含むご令嬢は一斉に椅子から立ち上がり、声を揃えてスカートの裾を摘みお辞儀をした。
 普段の私であれば、当然彼女たちと同じ挨拶をするべきなのだけれど──今の私はツカエミヤですもの。
 侍女として、深々頭を下げるだけに留める。

「殿下!わたくし、殿下に相応しいお茶を持参して参りましたの!ぜひともこの場にいる皆さんと……!」
「好きにしたら」
「ありがたき幸せにございますわ。ツカエミヤ!お茶を用意して!」

 茶会の処刑人と呼ばれている変態令嬢の真骨頂は、気に食わない人間に淹れたてのお茶をぶち撒けることにあるのよね。
 彼女の行いが以下に非常識であるかを知らしめるためには、やられたことをやり返す必要があるわ。
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