ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 本来であれば客人には、熱したばかりの淹れ立てを注ぐ。
 熱々の紅茶なんて変態令嬢にぶち撒けたら、火傷したと大騒ぎする彼女を断罪している場合ではなくなってしまうもの。
 冷えた紅茶を用意してぶち撒けたのも、すべて私の独断だけれど──変態令嬢の悪評を知る取り巻き令嬢は、彼女が望むものを得るためならばどんな非道なことにも手を染める悪女であることを知っている。

 罪をなすりつけるのは、赤子の手を捻るほど簡単なことだわ。

「そんな……」
「アンジェラ様……侍女にこのようなことを頼んでまで、第二皇子の妻になりたいのですか……?」

 取り巻き令嬢たちは、ヒソヒソと内輪で会話する体を取りながらアンジェラを非難した。直接アンジェラに向けて発するのではなく、噂同士程度に留めるのが貴族令嬢としてうまく社交界を立ち回るコツよ。
 面と向かって常識を疑われるよりも、噂話でヒソヒソと囁かれる方が、よほどプライドに傷がつく。
 変態令嬢も、自分の発言を全肯定してくれたはずの取り巻き令嬢たちに手のひらを返されて、プライドがズタボロになったようね。

「だったら何!?何が悪いのよ!」

 変態令嬢は悪びれもなく、私の罪を被った。
 彼女にその自覚はないでしょう。彼女が認めたのは、第二皇子に色目を使い妻の座を虎視眈々(こしたんたん)と狙っていたことだけ。ドレスに細工して、冷えた紅茶をぶち撒けたことは認めていない。

「わたくしは公爵令嬢よ!家柄だけなら、第二皇子と婚姻する資格がある!色目使って何が悪いのよ!当然の権利でしょ!?」
「見損ないましたわ……」
「アンジェラ様……そのような方だと思いませんでした……」

 けれど──取り巻き令嬢は、ドレスの細工と冷えた紅茶の件まで、すべて変態令嬢の仕業であると認識した。
 変態令嬢はみっともなく髪を振り乱し、否定を続けるべきだったのよ。認めた時点で、私の勝ちは確定した。

「星空の女神はわたくしよ!第二皇子と婚姻するのだって……!」

 もう少しで一息つけると思えば、急に具合が悪くなってきた。魔法回復役の副作用が、急激に襲い掛かってきたのね。2本一気飲みは、やはり身体に大きな負担が掛かる。

 まずいわ。視界が(しら)んできた。

 額からは脂汗が滲み、ポタポタと地面にシミを作る。変態令嬢が私に何かしようものなら、避けられそうにないわ。第二皇子が見ている前で、お兄様が助けてくれるとは思えないし──。
< 24 / 118 >

この作品をシェア

pagetop