ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。

星空の女神に代わって

「星空の女神は、君じゃない」

 私がどうしようかと悩んでいれば、聞きたくもない耳障りな声が聞こえてくる。あの重苦しい声は、沈黙の皇子──ディミオ・アル厶の声ね。
 変態令嬢が星空の女神ではないことは、明らかだけれど……。
 星空の女神を探している本人が否定した所で、変態令嬢が受け入れるはずはないのよね。

「ディミオ殿下……!」
「気安く名前、呼ばないでくれる」
「何故わたくしでは駄目ですの!?わたくしは、殿下が求める黒髪と金目ですのに!」
「おれが求めているのは、まがい物じゃない」

 耳障りな声が、頭の中でガンガンと鳴り響いている。
 早く終わってくれないかしら。
 半刻以内とお父様には厳命されたけれど、正常な状態で居られたのは三時間がやっとだなんて……詰めが甘かった。

「おれが求めるもの。おれの名を呼んでいいのは──星空の女神だけだ」
「な……っ。ツカエミヤが、星空の女神ですって!?」

 魔法回復役の副作用でどうしようもならない私の表情を覗き込んできた第二皇子は、当然のように私を抱き上げた。体調が悪くてどうしようもない私は、第二皇子の手から逃れるどころか、身体を預ける羽目になる。

「昨日ぶりだね、星空の女神。姿を変えれば、おれの目は誤魔化せると思った?その手は通用しないよ。おれは君がどのような姿であろうとも、必ず君を見つけて見せる……」

 彼はツカエミヤの容姿を借りた私の手のひらを取って優しく口付けると、愛おしそうに私を抱きしめた。
 ツカエミヤと星空の女神と呼ばれているミスティナが入れ替わっていると知らない変態令嬢とその取り巻きは、ツカエミヤが第二皇子のハートを射止めたと信じられない気持ちで一杯なようね。

「どうしてよ!殿下が愛する夜空の女神は、黒髪に金目でしょう!」
「君に関係ある?」
「わたくしは、公爵令嬢よ!」
「おれの前で、星空の女神に罪をなすりつけようとした。その罪は、命に代えても償わなければならない。君は終わりだよ」
「ツカミエヤが星空の女神なわけがないに……!どうしてわたくしが、命に代えても償わなければならないの……!?」

 うるさい。気分が悪くて、どうにかなってしまいそう。
 第二皇子の前で正体を晒すのはいいとしても、変態令嬢やその取り巻きにミスティナの姿を晒すことはできない。私は白む視界のまま、手探りで彼の裾を掴むと、か細い声で彼に囁く。
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