ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。

沈黙の皇子と甘いひと時

 私はカフシーの家を出てから半刻以内に、お父様の転移魔法が発動する手筈を整えてからラメルバ公爵家に乗り込んだ。
 どれほど第二皇子と甘い時間を過ごそうとも。設定された時間になれば、お父様の転移魔法は絶対に発動するから。私は第二皇子の胸元から逃れることはなく、大人しくしている。
 逃げ切れる自信がなければ、どれほど体調が悪く経って大人しく彼の腕に抱かれたりしないわ。当然じゃない。

「やっと、二人きりになれたね」

 我が物顔でラメルバ公爵家の一室に堂々と侵入し、整えられたベッドの上に私を下ろした彼は、当然のように私の隣に横たわる。本人は二人きりになったつもりだけれど、この部屋には嘘が見抜けるらしい従者と、護衛らしき騎士団員が数人控えているのよね。
 お兄様は近くにはいないでしょうけれど、遠くから私達の会話を一言一句漏らすことなく聞いているはずだわ。

「星空の女神……。おれに本来の姿を見せて……」

 魔力回復薬のせいで、身体がだるい。
 魔力消費を防ぐためには、変身魔法を解除するのが一番だ。
 私は彼に促されるがまま、変身魔法を解除する。
 ツカエミヤからミスティナの容姿に戻った私を至近距離で見つめた彼は、星空の女神と再び巡り会えたのが嬉しくて堪らないようで、瞳からはらはらと静かに涙を溢した。

「おれの女神……。とても綺麗だ……」

 第二皇子が泣き虫なんて話は、聞いたことがないのだけれど。
 具合が悪そうな私の姿を見て綺麗と称するのも最悪だけれど、彼はどうして、そこまで私を求めるのか……さっぱり理解できないわ。

 副作用のせいで、頭が回っていない。
 第二皇子の気持ちなどどうでもいいわ。今は休みたい。

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