ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「拘束された廃太子が、すぐに出てくるわ。早く帰りなさい」
「本当にありがとう……!ミスティナには、何度お礼を言っても言い足りないわ!大好きよ!私の親友!」
「私も愛しているわ。気をつけてね」

 あれを見た皇太子の忠臣が、何かをしないとも限らない。当然ロスメルの身辺警備は彼女の見えない所で強化はしているけれど──帰るまでが遠足ですもの。数日後に無事な姿が見られることを、祈るしかないわね。

 任務完了。私も見つからないように、この場を去らなければ。

 皇太子が参加するような大きな夜会には、貴族の娘であれば、招待されていなくたって参加したいと思う。
 私はこの国の貴族にしては珍しく、招待されても夜会に参加したいなどとは思わない令嬢だった。

 私の爵位は伯爵。

 ロスメルとして参加した今日の夜会にも、招待状が送られてきていたけれど――不参加を申告している。

『ミスティナ・カフシーは、蝶よ花よと育てられた。カフシーの病弱な箱入り娘。領地から一度も出たことがなく、親友のロスメルが主催するお茶会にすら顔を出さない無礼者』

 社交界の評判は信じられないほどに悪いけれど、私はこの評判に満足している。私が領地内から出たことがないと言う設定は、私の仕事がやりやすくなる便利な設定だからだ。

「あんのクソ皇子……」

 ロスメルには心配ないと言ったけれど、証拠を記録する為に、何発か青あざができる程度には暴力を振るわれている。
 受け身を取ったら、私がロスメルじゃないことがバレる可能性もあったから、受け身は取らなかった。そのせいで痣が出来た手足は闇夜でもわかるほどに腫れ上がっている。

 冷やした方がいいわよね。

 今頃夜会の会場では、皇太子の廃嫡を宣言している頃かしら。
 少しくらいならば、領地内の噴水で傷を冷やしても問題ないはず。

 痕が残って入れ替わりを疑われるくらいなら、リスクを考慮した上で、少しだけ傷を癒やす時間を作っても……許されるわよね?

 私はドレスを捲り上げると患部を露出し、ゆっくりと噴水の中に足をつけた。
 裾を腰元で縛れば、両手も自由になるから……噴水の縁に腰掛ければ、両腕も冷やさせそうね。
 私は早速、皇太子につけられた痛々しい痕を消すべく、両手足を水槽の中に浸す。

 ひんやりして、気持ちがいいわね……。

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