ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「お兄様、体調は?」
「魔法回復薬を一気に二本。ラッパ飲みなんざしてねぇから、問題ねぇよ。教会の方も、静かなもんだ。王都が荒れてるかんな。こっちまで迷い込んでくるのは、1週間くらい掛かるだろ」
「それを聞いて安心したわ。国と領地が平和であることは、心から喜ぶべきことだもの」

 殿下には、困ったものだわ……。
 廃太子の件が公になって荒れる王都など目もくれず、星空の女神探しに夢中だなんて。お兄様は私が眠っている間の新聞を取っておいたようで、私に見せてくれる。

『皇太子アルビス・アルム殿下、廃嫡!跡継ぎは沈黙の第二皇子に内定』
『揺らぐ王家。第二皇子に国を任せて良いのか?』
『第二皇子は、王都のことよりも皇后選びに夢中?』

 三流ゴシップ誌ならともかく、王立新聞で堂々と第二皇子の悪口を書いて配布するなんて……廃太子派の嫌がらせかしら?彼も苦労するわね。
 一時間枚に手紙を送付してくる辺り、全く気にも留めていなさそうな姿が目に浮かぶわ。

「殿下にバラして、どうすんだよ」
「うちの家業についてはバラしてないんだから、いいじゃない。あちらには嘘を見抜ける従者が居るし、私が変身魔法を使えることは、隠しきれなかったわ」
「従者と第二皇子が入れ替わってた話は、てめぇを諦めさせる脅し文句にはもってこいだが……」
「2日前と、言っていることが違うわ。私には殿下の元へ、さっさと嫁げと言っていたじゃない。どうしたの?」
「気が変わった」

 お兄様はこれがあるから困るのよね……。
 私の味方になってくれるならこれほど喜ばしいことはないけれど。お兄様は気まぐれ。またいつ手のひらを返して、私を裏切るかなどわかったものではないわ。
 あまりお兄様に頼り切らないよう、適度な緊張感を持って接しないと。

「あんな頼りねぇ奴に、てめぇを預けるわけがねぇだろ」
「泣き虫皇子だってことは、私とお兄様だけの秘密よ。お兄様が地獄耳の魔法を使えることは、まだバレていないのだから」
「言い触らしたりはしねぇよ。改善されねぇ限り、てめぇを嫁がせたりはしねぇけど」
「殿下に嫁ぐ必要がないと言ってくださるのなら、私が生涯独身を貫き、カフシーの当主として家業を継ぐ件も──」
「それは認めねぇ」
「お兄様!」
「あのいけすかねぇ第二皇子との婚姻は阻止するが、俺の認めた男とは婚姻しろ」
「お兄様が認める殿方など、何処にいるのよ!?」
「ここにいるだろ」

 お兄様は当然のように言うけれど、カフシーにお兄様が認めた殿方など居ない。
 居るとすれば、それは……。
< 39 / 118 >

この作品をシェア

pagetop