ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 目覚めた私は眠い(まぶた)を擦りながら、心配そうに顔を覗き込むお姉様と目を合わせる。
 なんだか、勝ち気な普段のお姉様と、様子が違うような気がするわ……。

「お姉様?どうしたの?」
「どうしたの、ではないわよ。2日も寝ていたら、誰だって心配するでしょう。愚弟(ぐてい)が腑抜けになって仕方ないの。どうにかしなさい」
「お兄様が……?」

 私が2日間も寝ていたって、お兄様は心配などしないでしょうに。
 お姉様は私の体調に異常がないかを確認すると、クローゼットから着替えのドレスを投げて寄越す。

「第二皇子が会いたいって大騒ぎして、1時間毎に手紙を送ってくるの。目が覚めたなら中身を確認して、返事を(したた)めること。いいわね?」
「一時間毎……?」

 魔法を使わない限りは、王都から一時間枚に手紙を送ってくることなど難しいはずなのに。
 そもそも、たった2日で私を特定したの?早すぎるわ。
 待ってるなんて、言わなければよかったかしら……。

 寝起きの身体にムチを打って着替えた私は、お姉様に諭されるがまま山積みになっているであろう手紙を探すけれど、私の部屋には見当たらない。
 返事を認めなさいと命じられても……中身が確認できなければ、難しいわよね……?

「おい」
「お兄様?」
「ちょっと来い」

 私が着替えている間に、お姉様はお兄様に私が目覚めたことを伝えてくださったみたいだわ。
 不機嫌そうに私を睨みつけたお兄様は、私をお兄様の部屋に引き摺り込んだ。

 珍しいわね。お兄様は、自室に入られることを嫌がるのに……。

「姉貴は手紙の返事を書けって、てめぇに命じたんだってな」
「ええ。手紙の内容に目を通そうとしたのだけれど、見当たらなくて……」
「目を通す価値もねぇ。気持ち悪ぃ手紙は燃やしてやったから、安心しろ」

 お兄様が気持ち悪いと称する手紙の内容は……愛の告白に違いないわね。
 2日を時間に換算すると、28時間。28枚の手紙にびっしりと愛の告白が記されていれば、気味悪がって処分してしまうのも頷けるわ。

「手紙の差出人は殿下で、宛先は私だったのでしょう?私の許可を得ず勝手に処分するのは、どうかと思うわよ」
「婚姻する気はねぇんだろ。俺がてめぇの代わりに処分してやったんだ。感謝されることはあっても、文句を言われる筋合いはねぇな」
「お兄様ったら……」

 自室の椅子に座り、ふんぞり返ったお兄様は、貴族の息子とは思えぬ立ち振舞いだ。
 お姉様、お兄様、そして私──礼儀がなっていないのは、カフシーの伝統かもしれないわね。
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