ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「殿下と甘いひとときを過ごしたそうね?いいじゃない、もう。殿下に骨を埋めるつもりで……」
「お母様!私はカフシーの家業に、ずっと携わっていたいの!」
「そうやって、ミスティナとしての人生を諦めてきたから……殿下に言い寄られても素直に受け入れられないのでしょう」
「お前は変身魔法を使えば社交的だが、ミスティナとしての交流はロスメル公爵令嬢とだけだったな」
「私がアルフォンス公爵家に声を掛けなければ、ミスティナは友人すら作るつもりがなかったでしょう。お父さんとお母さんは、心配だわ」

 両親が私のためを思って言っていることは、痛いほどよく理解している。
 私が嫌がるせいで、幼い頃から婚約者と引き合わされることなどなかったけれど。私のことをどうでもいいと思っているのなら、今頃権力に目がくらんで、第二皇子との婚約を勝手に了承しているはずですもの。
 王家に返事をするよりも先に、私の気持ちを確認してくれるだけでもありがたいと思わなければ。

「カフシー伯爵家に生まれたものとして。迷える子羊の為に、今まで充分にミスティナは働いてくれた。これからは迷える子羊のためではなく、ミスティナ・アクシーとしての人生を歩め」
「そうよ、ミスティナ。あなたの変身魔法は素晴らしいけれど……。あなたがミスティナであることは、変えられないの。あなた自身の幸せを、考える時期なのよ」

 お母様は、第二皇子との交際を拒否すれば必ず後悔すると私を諭した。
 お父様は後悔するとまでは言わないけれど、私の幸せを願ってくれている。

「私の幸せは、アクシーで代行業を続け、迷える子羊を救うことでしか得られない」
「ミスティナ……」
「第二皇子に愛を囁かれて、ときめいて。そんな些細な幸せよりも、苦しんでいる哀れな子羊を救ったの方がよっぽど、幸福な気持ちになれるわ!」
「殿下から、1時間毎に手紙が送られてくるなど異常よ。ミスティナは殿下に、狂おしいほど愛されているの。誰もが手を伸ばしても得られないものを手放すなんて、迷える子羊に失礼だわ」

 迷える子羊達は、どんなに助けてと虚空に手を差し伸べた所で、助けてもらえない。

 迷える子羊がどれほど願っても得られないものは、私は不本意ながら得てしまった。迷える子羊を幸せにしたいと願う私にとって、自らの幸せを選び取ることは罪でしかないのに──両親は、ミスティナ・カフシーとしての幸せをドブに捨てるなどありえないと、私を説得している。
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