ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「殿下の妻になったとしても、迷える子羊を救う方法はいくらでもあるはずだ」
「そうね。地獄耳の侍女を迎え入れれば、今まで通りの生活だって夢ではないわ。王都内に、支店を作れば良いじゃない。皇后になれば、ある程度は目を瞑ってくださるわよ」
「そうだな。それを婚姻条件にすればいいだけだ」

 両親は手を叩いて、名案だと喜んだ。
 私達が助けられる人々は、カフシー領の教会で祈りを捧げたものだけ。
 カフシー領の教会で祈りを捧げることすら許されず、今も苦しんでいる人々を助ける術など、私には存在しない。

 両親は私が皇后となり、お兄様と同じ地獄耳の魔法が使える侍女を迎え入れたら、王都内で今まで通り迷える子羊を救う活動ができると喜んでいる。

「私の暗躍が殿下にバレたら、命はないわよ」
「誰にも悟られることなく暗躍するのは、ミスティナの十八番(おはこ)でしょう?」
「……お前ならきっと、やり遂げられるはずだ」

 両親は私に、どちらも諦める必要はないと背中を押してくれた。
 迷える子羊を救うこと。殿下と添い遂げ、皇后となる──ミスティナ・カフシーの人生を諦めない。そのために、私が今するべきことは──哀れな子羊を救うことではなく、お兄様と同じ魔法を使える侍女を探すことだわ。

「……お父様、お母様。私、考えてみるわ」

 私は常識に、囚われすぎていたのかもしれない。
 哀れな子羊へ手を差し伸べ救うことは、カフシー以外でもできる。準備さえ整えば、どこでもできるのが代行業の魅力ですもの。
 これを機に、支部をオープンさせるのも悪くないわ。
 王家直属、悪人断罪(あくにんだんざい)密告屋(みっこくや)──仮名にしたって、ダサすぎるけれど。

 そうと決まれば、行動あるのみだわ!
 私は殿下へ手紙の返事を認めることなどすっかり忘れて、地獄耳の魔法が使える侍女の選定に集中した。

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