ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 その瞳はどこまで行っても優しく、私の胸を高鳴らせる。
 ときめいている場合ではないわ。皇太子派に私の正体がバレていて、私を絡め取る為の罠かもしれないのに……。

 もっと警戒しないと。

 私がロスメルに成り代わって皇太子と婚約破棄をしたとバレたら、両親にも迷惑が掛かるわ。私だけの問題じゃない。

 吸い込まれそうなオレンジの瞳に、闇夜を連想させる漆黒の髪が、風に揺れている。

 彼は美形と呼ぶに相応しいほど顔達が整っていた。こうして至近距離で話をしているだけで、胸が高鳴る程に。
 皇太子だって、誰もが羨む美形の部類ではあったけれど。
 性格が最悪なせいで、胸が高鳴ることなどなかったのに……。不思議な話ね。

「まずはあなたから、名乗るのが筋ではなくて?」

 私が挑発するように頷くと、彼は小さく頷いてから名を名乗る。
 彼の口から紡がれる名は、私が想定もしていない人物の名前だった。

「おれは、ディミオ・アル厶」
「ディミオ・アル厶」
「うん。ディミオでいいよ。星空の女神」

 ディミオ・アル厶って……沈黙の第二皇子じゃない!
 驚きすぎて、真顔で尊き方のフルネームを繰り返してしまったわ。
 不敬にも程がある。社交場だったら、普段変身魔法で他人に成り代わって断罪に勤しむ私が、逆の立場に成る所だったじゃないの。勘弁して欲しいわ。

「夜会が開催されている最中でしょう。側近も連れず一人出歩くなど、褒められたことではありませんよ」
「おれが居なくなったことすら、誰も気づいてない。おれは居ても居なくても、いい存在なんだ」

 今まではそうだったけれど、これから彼は、この国で一番尊き立場になるはずよ。皇太子がロスメルにやらかして、廃太子となるはずだから。

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