ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「てめぇは俺の寝言が、事実かを確かめに来たんだろ。てめぇと関係を、白黒はっきりつける必要があるとは思えねぇな」
「お兄様が思わせぶりな態度を取るのがいけないんだわ」
「へぇ?」

 お兄様は頬を膨らませた私が視線を外した隙を狙い、上半身を起こして襲い掛かってきた。
 両肩を力強く押された私は、ボスンとベッドの上に押さえつけられる。

 お兄様は、一体何を考えているのかしら。
 苦しそうに唇を噛み締め視線を彷徨わせた後、お兄様は苦しそうに言葉を吐き出す。

「こうやって俺がてめぇに迫るのが、思わせぶりな態度だって言いたいのかよ」
「ええ」
「馬鹿じゃねぇの。兄妹同士、スキンシップの一環だろ」

 本当に、そうかしら?
 仲のいい兄妹ならあり得るかも知れないけれど、私達は長い間仲の悪い兄妹として暮らして来た。スキンシップの一貫として、妹を兄が押し倒すなんてことが……ありえるのかしら……?

「一線超えなきゃ、いいんだよ。わかったか?」

 世間一般の兄妹がどのような距離感で暮らしているかなんて、確かめる術などないわ。
 考え方が違う、生活している環境だって違う人々と自分を比べたって、いいことなど一つもない。

「お兄様の想定する……一線って?」
「わざわざ口にしなきゃ、わかんねぇのかよ」
「お兄様と、見解の相違があっては困るでしょう?」

 私が微笑みかければ、お兄様は私の肩を掴む手を離し、私の唇を指でなぞった。
 ふにふにと感触を確かめるようになぞられた私は、どう反応していいか分からず、困惑するしかない。

 これはスキンシップの一貫?
 それとも……。

「抱きしめる、手を繋ぐ、肩を寄せ合うのは、普通の兄妹だってすることよね」
「ああ」
「唇に触れるのは、スキンシップの一貫ではないと思うわ」
「頬や額に口付けるのは、挨拶の一環なんだろ」
「国によっては……そうみたいね」
「唇を指でなぞるのだって、あんま変わらねぇよ」

 お兄様は、唇と唇が触れ合うことさえなければ何をやっても兄妹のスキンシップだと主張した。
 結局の所、お兄様は兄として、妹の私を好き勝手できる権利を奪われたくないだけなんだわ。
 この状態のお兄様に、白黒はっきりつけたいと申し出た所で時間の無駄。
 生産性のない会話をするくらいなら、睡眠時間に充てた方がよっぽど時間を有意義に過ごせそうだわ。

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