ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「兄妹同士のスキンシップだ。外野にとやかく言われる筋合いはねぇな」
「恋人同士のスキンシップだよね。ミスティナが小さな子どもなら、言い訳が利くけど……。ミスティナは大人だ」
「こんな中じゃ、俺が一番年上だ。年功序列って知ってるか?俺に従え」
「我が国で何よりも重要視されるのは貴族階級だ。おれは王族、君たちは伯爵。この場で一番権力を持っているのはおれだよ」

 二人は私のことなど、気にした様子もなく睨み合う。
 他所でやってくれないかしら……。
 王命であることを記した書状が届けば、お兄様がどれほど言葉を重ねても私と殿下の婚姻は避けられない。
 私が殿下から逃れる術があるとしたら、書状が届く前にお兄様と駆け落ち──ないわね。
 お兄様と掛け落ちだけは、絶対にないわ。
 そんなことしたって、私の願いは叶わない。
 すべてを丸く収めるためには、やはり私が殿下と婚姻するしかないわ。

「……お兄様。もう、いいわ……」
「ミスティナ。何いってんだ。俺が守ってやる。こんな奴に、渡さねぇ」
「ミスティナはおれと同じ気持ちなんだ。邪魔しないで。自称お兄さん」
「……王命が下されたのなら、殿下との婚姻は避けられないもの……。書状が本物であることを確認次第、私は殿下と……」
「渡さねぇ……。絶対に渡すもんか……!」

 お兄様は、殿下に私を奪わせたりしないと何度も名前を呟き始めた。
 普段横暴なお兄様が弱っている姿を見るのは心が痛むけれど、お兄様の異常な様子を見た殿下が口を噤んで、静かになったのを放置するわけにはいかないわよね。

「今はまだ、殿下の口から王命がくだされたと伝えられただけ。私はお兄様の妹。ミスティナ・カフシーよ」
「渡さねぇ……。絶対に、渡すもんか……!」
「兄妹ですもの。殿下に嫁いでも、お兄様やお姉様と会えなくなるわけではないでしょう?」
「君の自由を奪うつもりはないんだ。おれのそばで、夜空に輝く星々のように輝いて欲しい」
「ポエマーか?キモいんだよ……」
「お兄様。殿下の前で、そのような口の聞き方はよくないわ……」
「妹に口調を諭されて、恥ずかしくないの?」
「うるせーんだよ、ハゲ。てめぇが俺からミスティナを奪おうとしたのが悪い。俺は絶対に認めないからな」
「何度言えばわかるの。物分りの悪い自称お兄さんだね。ミスティナは、おれの妻になる運命なんだよ」
「な……っ!」

 殿下は丸椅子から腰を浮かせると、当然のように私の右隣へ横たわった。
 左隣にはお兄様。右隣には殿下。
 私は二人の男性に挟まれ、横たわる事になってしまった……。
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