ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 盆と正月がいっぺんにきたみたいな状況ね……。
 この状況から、私はどう抜け出せばいいのかしら。
 困惑している間に殿下は、ツカエミヤから水を受け取ると、私に飲めるかと聞いてきた。
 強く抱きしめられたことに苦しんでいただけだから、問題なく飲めるけれど……。
 お兄様が驚きの声を上げたのには、理由がある。

「ミスティナ。水が飲めないようだったら、おれが口移しで飲ませてあげる」
「殿下……自分で飲めるわ」
「はじめてじゃないんだから。恥ずかしがる必要は、ないよね?」
「てめぇ……!」

 私が転移魔法の発動により、殿下の前から消える直前。私達は口づけを交わした。
 私の姿が消えかけている状態での口づけは、はじめてとカウントするのは微妙な所なのに……殿下はお兄様を挑発するために、わざとはじめてを貰ったと口にしたんだわ。
 お兄様を怒らせたって、私と殿下の婚姻が祝福されることはない。
 頑なに拒絶するだけで、なんの意味もなさないのに……。殿下の狙いは、何……?

「俺は絶対に認めねぇからな!」
「正式な書状をカフシー伯爵が目にするまでは、君の無礼な態度を許してあげる。ミスティナ。無理させてごめんね。ゆっくり休んで」
「無理させてるってわかってんだったら、今すぐミスティナの前から消えやがれ!」
「血の気が多い男よりも、物静かな男の方が、ミスティナは好きだよね」
「ぐ……っ」

 殿下の不意打ちは、お兄様にクリーンヒットした。
 騒がしい男である自覚が、お兄様にはあったのね……。

「ミスティナ」

 大人しくなったお兄様が、私に巻き付く手の力を緩める。
 チャンスを逃すことなく殿下は、私に身を寄せ耳元で囁いた。

「愛してる」

 こんなの……心臓がいくつあっても足りないわ……。
 ドキドキと恐怖で忙しない心臓を抑え、顔を赤くしたり青くしたりした私は、王命の記された書状が、数時間以内に届くことを願った。







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