ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 彼は優しすぎる。
 すぐ泣くし、私の体調があまりよくないと知れば、自分のように心配してくれる人。
 いざという時、彼は私を切り捨てられるのかしら?

「了承したら、ミスティナはおれの物になる?」
「いいわ」
「わかった。おれのこと、好きにならなくてもいいよ」

 彼は私が、愛を返す必要などないと認めた。
 お兄様は、私が誰かのものにことを恐れている。婚姻した後私の気持ちが変化して、彼のことを愛おしいと感じる時が来るかもしれないけれど──少なくとも今は、お兄様と殿下に、愛情を抱くことはない。

「私は殿下に嫁ぐけれど。私は、誰の物でもない。私は、私だけの物よ」
「ミスティナ……!」
「お兄様。今までありがとう。これからも、兄妹としてよろしくね」

 私達は離れていても、血の繋がった兄妹だわ。兄妹の絆は、離れていても永久に不滅よ。

「ミスティナ……俺は……」

 お兄様は今にも泣き出しそうな声音で私の名を呼ぶと、力強く抱きしめた。
 お兄様は私に何かを伝えたがっていたけれど、その言葉を耳にすることはない。殿下が、お兄様の言葉が聞こえてくるよりも早く──私の名を呼んだから。

「おいで、ミスティナ」
「はい、殿下」

 私はお兄様の胸元から抜け出ると、お兄様へ背を向けて殿下の元へとゆっくり歩みを進める。殿下は両手を広げ、私を胸に抱く瞬間を、今か今かと待ちわびているようだった。

「ミスティナ、おれの気持ちがわかる?」
「殿下の気持ち、ですか……?」
「そうだよ。君に会いたくて堪らなかった。手紙の返事が返って来なかったから、逃げられてしまったんじゃないかと不安で……夜も眠れなかった」

 殿下は満天の星を見上げては、私に思いを馳せていたと打ち明けた。
 寝言で私の名を呼ぶお兄様と比べたら、愛の重さはどっこいどっこいね。

「離れている間、ずっと君のことだけを考えていた。星空の女神が、ミスティナ・カフシーであると知ったおれは、喜びに打ち震えたよ。君は社会から隔絶されていた。おれがはじめての男だと思ったら、涙が出るほど嬉しかったんだ。なのに──」

 殿下は私の後方に立っているお兄様を見つめた。

 お兄様に別れを告げた手前、どんな表情をしているかまでは分からなかったけれど──殿下の浮かない顔色を見るに、睨み合っているんでしょうね。
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