ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 両親は一体何が起こっているのかと目を丸くしているし、お姉様は退屈そうに扇子を(あお)いでいる。
 そろそろ、頃合いかしら。殿下の元へと向かうのをもったいぶっていると、家族に迷惑がかかるわ。早めに片付けなければ。

「蓋を開けてみれば、君の隣にはとんだ邪魔者がいた。おれの代わりにミスティナを守ってくれたことが感謝しているけれど──これからは、おれがミスティナを守るから」

 殿下は私に約束をしてくれた。
 私に仇なすもの、私に牙を剥くものは、相応の報いを受けて貰うと。
 お兄様の代わりに、必ず私を守ってくれるらしい。

「……私は、殿下が思うような……か弱い人間ではないわ」

 自分のことは、一通りできる。
 私は誰かに守られるよりも、迷える子羊を助けるためなら。
 自らの危険を(かえり)みず、火の中に飛び来むような女よ。
 誰かに加害されることがあれば、黙って耐えることはしない。

 ロスメルは、幼少の頃から皇后として育てられた。
 何を言われても耐え忍ぶことこそが正しき淑女であると教えられた彼女と同じように、私が王城で過ごすと思ったら、大間違いだわ。

「ミスティナは強くて美しい。意思がはっきりしているよね。だからこそ、放っておけないんだ」
「……そう。私の本性を目にした後。お前と婚姻するべきではなかったなど……言わないでね」
「言わないよ。おれは生涯、君だけを愛し抜くと誓う」

 私はその言葉を聞いて、ゆっくりと彼の胸元へ飛び込んだ。
 私を抱きしめた殿下は、壊れ物を扱うように優しく背中へ手を回す。
 力強く私を抱きしめるお兄様とは、大違いね。
 互いのぬくもりを思う存分堪能した彼は、私を優しく横抱きにすると、従者に促す。

「アンバー、戻ろう」
「はい、殿下」
「おい、クソ野郎!」

 殿下が転移魔法を発動させると、お兄様が彼に話しかけてきた。
 相変わらず、酷い呼び方だわ……。彼は皇太子なのに……。
 殿下はお兄様を私の視界に入れたくないようで、私の髪を優しくなでつけながら、さり気なく胸元に押し付けた。この場で逆らったら、後が怖いわ。私はお兄様の声だけを聞くことにした。

「ミスティナを泣かせたら、承知しねぇぞ!」
「泣かせないよ。今までご苦労さま。君がミスティナを、二度と抱き留めることがないように願っているよ」
「うぜぇ……」

 そして私達は、彼の発動させた転移魔法によって、王城内に転移した。

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