ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「安心して。私はどちらも、助けるわ」
「どちらか一人しか助けられないのに?」
「与えられた手本通りに行動することだけが、正解ではないのよ」
「うん。それでこそおれが愛する、星空の女神だよ。ミスティナ。君のために、ドレスを用意したんだ」
「……ドレス……?」
「うん。きっと驚くよ」

 殿下は私を抱き抱えたまま、私がこれから過ごすことになる部屋に向けて歩き出す。それはいいのだけれど、ツカエミヤの件が有耶無耶になっているわ。

「ツカエミヤは……」
「荷物と一緒に、来るんじゃないかな。アンバーも置いてきてしまったから」
「従者は……殿下の護衛も兼ねているのでしょう。長時間彼と離れるのは、どうかと思うわ」
「おれの心配をしてくれるの?」
「……殿下のお命は、国民の宝ですもの」
「おれに何かあっても、ミスティナは悲しんでくれなさそうだよね」
「今は……そうかもしれないわ」

 殿下に嘘を付くのは簡単だ。
 そんなことありませんと言って、その時が来た時に心配できなかったら──私の命はないわ。
 お兄様のように情緒不安定となり、さらに執着するようでは困ってしまうもの。

「ミスティナの素直な所が、おれは好きだよ」
「お褒め頂き光栄ですわ」
「これからたくさん愛を注いで、おれに何かあった時悲しんでくれるくらい……おれを愛してもらえるように、頑張るから」
「ええ。私はその頑張りを、そばで見ているわ」

 殿下は私を抱き寄せると、これから私が暮らす部屋へと足を踏み入れる。
 その部屋の内装は、異常だった。
 星空を思わせる悪趣味な壁紙から始まり、星々が散らばる、純白の天蓋付きのベッド。照明は一番星をイメージした大きな星が象られていて、とても王城内とは思えない。

「……殿下。この部屋は……」
「星空の女神に、相応しい部屋だろ」

 24時間365日、星空の内装で暮らし続けろなんて随分と無茶を言うのね。
 夜になれば、星空など外に出ればいくらでも見れるじゃない。
 内装までそっくりそのまま再現して、真っ昼間でも星空が見れるような部屋を私にあてがうなんて……。

「……落ち着かないわ」
「そのうち、居心地がよくなるよ」

 他力本願ですこと。

 殿下は首元に両手を回すように私へ告げると、器用に両足を屈めて私を落とさないよう抱き抱えたまま、クローゼットの扉を両手で開け放つ。

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