ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「沈黙の第二皇子が部下にそう命じたなら、何よりも優先されるべき事柄として処理される。早ければ明日には、速達で王城に招集命令が掛かるな」
「冗談じゃない。ミスティナ・カフシーは病弱なの。とてもじゃないけれど人前に出れるような体調ではないわ!」
「そういう設定を貫いたって、逃れられるわけねぇだろ。寝ている姿でもいいから会わせろって強引に押しかけてくるのがオチだな」
「な……っ。私は関係ないわ!いつも通り、門前払いして!」
「未来の皇帝を門前払いとか、無茶言うなよ。こうなった以上、今まで通り代行業をすんのは無理だ。ミスティナ・カフシーとして、第二皇子の隣で骨を埋めるんだな」
「嫌よ!絶対に嫌!」
「てめぇのせいで、アクシーの代行業が王家にバレたらどうするつもりだ」
「そ、それは……っ」

 アクシー家の家業。
 それはこの国をより良き国へ導くために下された、神からの神託だ。
 王家は一切私達の家業に関与しておらず、神の信託を私達に告げる教会が元締めとなって活動している。
 アクシー家の家業は脈々と受け継がれ、50年近くが経過したけれど、私達がどのような家業で成形を立てているのかは、公表されることがなかった。

 アクシー伯爵領は王都からでは行き来がしにくいほど、辺鄙(へんぴ)な土地にある伯爵領。徒歩なら三日三晩歩き続けてやっと到着するような僻地にあるから、よほどのことがない限りよそ者は近づかない。
 領地内では争いが起きることなく、領民達は毎日穏やかでのんびりとした日々を過ごしている。

 アクシー家は神を信じ、頻繁に神へ祈りを捧げるために教会へ出入りしているけれど──教会に出入りしているのは、神へ祈りを捧げるためではないのよね。
 私達が教会に出入りするのは、救いを求める哀れな子羊達を救う為。
 哀れな子羊を救うことは、この国により良き発展をもたらすために必要なことだけれど……王家はその重要性を理解していない。

 もしも私達が長い間暗躍していると知られでもしたら、今まで歴史の闇に葬り去られてきた悪人たちが、こぞって私達を悪者扱いするでしょうね。

「てめぇが第二皇子のもんになれば、俺らは助かる。一人の犠牲で数十人の命が救えんなら、数十人を犠牲にしたりしねぇだろ」
「い、妹思いの優しいお兄様でしたら、愛する妹を犠牲になどしないわ!」
「妹なんて思ったこと、ねぇんだけど」
「お兄様!?」

 あんまりだわ。私とお兄様は、血を分けた兄妹なのに……!
 冗談だとフォローする言葉が聞こえてくるよう願ったけれど、待てど暮らせどお兄様の口からはフォローの言葉が聞こえて来ることはなかった。お兄様の鬼!悪魔!地獄耳の最悪男!
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