ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 緊張で右手と右足を同時に出してしまったツカエミヤは、ロスメルに勢いよく頭を下げる。

「み、ミスティナ様の侍女になりました!ツカエミヤと申します……!」
「そう緊張しなくていいのよ。私は、ロスメル・アルフォンス。爵位は公爵よ」
「は、はい!存じております!社交界の麗しき花にお会いできて、光栄です……!」

 ツカエミヤは長い間変態令嬢の侍女としてラヘルバ公爵家で働いていたけれど、ロスメルと変態令嬢には、交流が一切なかった。
 ロスメルがツカエミヤのことを知らないのも無理はないわね。
 ロスメルは廃太子の婚約者。有名人と会話が出来て、ツカエミヤはいつも以上に緊張している。
 今度、ロスメルとツカエミヤを二人きりにしてみようかしら。きっと面白いことになるわ。

「ツカエミヤも、ロスメルと同じなのよ」
「そう、私と……。ミスティナが手を差し伸べたのなら、とてもつらい思いをしたのでしょう……」
「い、いえ!私なんて、大したことはありません!」
「大したことがなければ、ミスティナは手を差し伸べないわ」

 ロスメルは私が、本人がどうしようなくなり、自ら命を断つと決断するまでは手を出さないと、身をもって体験している。
 自分と同じまだ見ぬ哀れな子羊達が、一人でも多く助かるのならば──喜んで私に協力してくれるはずよ。

「ミスティナ。私にできることがあれば、なんでも言ってね。協力するから……」
「ありがとう、ロスメル。私が今の考えているのは──」

 私はロスメルの耳元で、今後の作戦を囁いた。
 まず、立派な皇太子妃になるための教育と称して行われるこの時間を、段々伸ばしていく。
 今は30分だけれど、1時間、2時間、3時間と伸ばしていけば──自由な時間ができるでしょう。
 そうしたら、後は依頼主に成り代わって王城を抜け出し、哀れな子羊を救うために暗躍すればいいだけだわ。

「そう、うまくいくかしら……?」
「やってみて駄目なら、また別の策を考えれば良いのよ!」

 不安そうなロスメルの姿を見た私は、彼女の不安を取り除く為に笑顔を浮かべた。
 大丈夫。殿下さえなんとかできれば、どうとでもなるわ。

「もし駄目だったら……」
「皇太子妃に相応しいのは、ロスメル。ご令嬢の間では、随分前から常識だったでしょう?」
「ええ……それは、そうだけれど……」
「私の作戦がうまく行かなければ、その常識をひけらかして私を加害してくる貴族に相応しくない性悪を、バッタバッタと斬り伏せればいいだけよ」
「ミスティナ……」

 皇太子妃となる以上は、いつまで経っても影に隠れて暗躍するわけにはいかないわよね。
 やられたらやり返す。舐められたら数千倍返し。
 病弱な星空の女神を怒らせたらどうなるか。
 身の程知らずの貴族令嬢に、思い知らせて差し上げないと……。
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