ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 ミスティナ・アルムを名乗れと言われても、私がその名を名乗ることなど、社交場以外ではないでしょうね。
 神々に祈りを捧げ、助けを求めたら、皇太子妃が来たなんて話になれば……迷える子羊達が腰を抜かしてしまうわ。

「カフシーを名乗りたい?」
「……このままずっと貴方の隣に居たら……」
「このままずっと、永遠に。ミスティナは、おれの隣にいるんだよ」
「……カフシーを名乗っていた時代より、アルムの一員でいる時間の方が、長くなるのよね。そのうち、違和感がなくなるかしら……」
「そう、願うしかないね」

 ディミオは私の額に口づけると、当然のように私を抱き上げた。一人で歩けるのに……。本当に、スキンシップが大好きなのね。

 ディミオは皇太子の仕事を真面目にやる気がなかった。
 面倒な皇太子の仕事は影武者の従者に任せ、彼は私の隣をキープし続ける。

 従者に頼らないと覚悟を決めた彼は、一体どこに行ってしまったのかしら?

 私と甘い新婚生活を送りたいことは理解できるけれど、一刻も早く今まで通りの生活を送りたい私は、四六時中ディミオにベタベタと密着され続け、ストレスを感じていた。

「ディミオ。いい加減、従者に頼るのはやめなさい」

 婚姻から1週間後。ついに私は、ディミオへ苦言を呈した。
 私と一緒のディミオはよく話すし機嫌が良さそうなのに、私がいなくなると途端に沈黙の皇子に戻ってしまうと王城内で噂が広がっているみたいね。
 ツカエミヤから聞いたこの噂が事実であれば、従者との入れ替わりがバレるのも、時間の問題だわ。

「ミスティナは、おれと一緒にいたくないの……?」
「皇太子の仕事は本来、貴方一人でやらなければならないことでしょう。いつまでも従者に頼りきりでは、いざと言う時すらもまともに指示ができないお飾り帝王になってしまうわ」
「おれは有能だから、いざと言う時はちゃんとやる。ミスティナの心配には及ばないよ」
「ちゃんとやれる所を見せてくれないから、不安になるのよ。もっと有能な所を見せてくれないと……好きになろうとすら、思えないわ」
「ひぃ……っ!」

 ツカエミヤが悲鳴を上げたのは、ディミオの穏やかな表情が、険しい表情に変化したからだ。
 私に対してもそ凍えるような表情を見せたってことは、相当怒りを感じている証拠ね。

< 84 / 118 >

この作品をシェア

pagetop