ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 目ざとくその紙を見つけたディミオは、私が回収するよりも早く折り畳んだ白い紙を持ち上げ、四つ折りの紙を広げて目を通しはじめた。

「ミスティナ。これは、なに?」

 青白い顔で凄まれても、恐ろしくはないけれど──私の危機に敏感なディミオが、この王城に蔓延る悪人リストを目にして怒るのは、無理もないことね。
 カフシーの家業はよく知らないでしょうけれど、ディミオは私が変身魔法を使えることは知っているもの。
なにかするんじゃないかと、気が気ではいられないはずだわ。

「この王城に蔓延(はびこ)る、悪人が羅列されたリストよ」
「ミスティナが目を通す必要なんてないだろ」
「どうして?私は王太子妃。いつかは皇后になる女よ。王城の風通しを良くするのも、私の役目でしょう」

 私はディミオの瞳と目を合わせ、妖艶に微笑んで見せた。
 動揺するから嘘がバレるのよ。堂々としていれば、嘘は容易に真実となる。
 ツカミエヤのように、すぐ思っていることが顔に出るタイプの人間はどうしようもないけれど──私がディミオを惑わすことなど、容易いわ。

『それはおれの役目だよ』

 普段のディミオであればそうやって微笑み、私を抱く力を強めて話が有耶無耶になるはずだったのに──今日のディミオは、様子がおかしい。

 彼の瞳をじっと見上げていれば。
 ディミオの瞳から、光が薄れていく。

 ──魔法の発動条件、かしら。
 私はディミオが魔法を使う理由に心当たりがなくて、堂々と彼の瞳を見つめ返した。

「嘘だよね」

 その行動が仇となるなど……夢にも思わない。
 私はディミオに何を言われているのか、よく理解できなかった。

「ディミオ?嘘って?」
「皇后になる気もないし、王城の風通しを良くしようと行動しているわけでもない。ミスティナがこのリストを手にして、やろうとしていることは別にある」
「……どうしたの?なんだか怖いわ……」
「おれに隠し事をしようとしても、無駄だよ。嘘はすぐにバレる。アーバンに頼んで、今すぐミスティナの考えていることを暴露してもいいんだよ」

 従者のアーバンは、心を読む魔法を使える。
 先日その魔法で王城から抜け出そうと思っていた所を邪魔されて、方向性を変更する羽目になったのよね。
 今はその変更した作戦がディミオに露呈しそうになって、どうリカバリーしようか考えている所。

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