ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
「ねぇ、ミスティナ。どっちがいい?おれへ素直に、このリストを使ってしようとしていたことを打ち明けるか。アーバンの魔法で、ミスティナの考えを丸裸にして貰うか」
「私の口から、説明するわ」

 ディミオがどんなの魔法を使っているかわからないけれど、私の口にした言葉が嘘だと断言するならば──口にした言葉の真偽がわかる魔法を、使える可能性が高いわよね。
 家業の件まで赤裸々に暴露されるくらいだったら、私の口から素直に話をした方がいいに決まっている。

「……ディミオには、一度……話したことがあるわよね。貴方と婚姻したら、できなくなることがあると……」
「うん。それとこのリスト、何の関係があるの」
「私は、世界の平和を願っているわ」

 当たらずとも遠からずって所ね。
 嘘でもあるし、真実でもあるから、ディミオの口からは嘘だと否定の言葉は出てこない。
 嘘と真実を織り交ぜれば、否定して来ないのね。
 それならいくらでも、やりようはあるわ。
 ある程度真実をちりばめながら、カフシーが代々受け継ぐ代行業のことだけは隠し通して見せる。

 私、売られた喧嘩は負けたことがないの。
 何が何でも、切り抜けてやるわ。

「王城に蔓延る悪魔達は、今も何処かで誰かを苦しませているかもしれないでしょう。私は困っている人がいると、手を差し伸べてあげたくなるの。このリストは、弱き者を助ける為に使うのよ」
「……弱きものを助けたい。ミスティナの思いは素晴らしい。君は変身魔法が使えるからね。弱きものを助けるためなら、自身がどれほど危険な目に合おうとも、火の中へ飛び込んでいく……」

 これは本心ですもの。ディミオに嘘つき呼ばわりされる筋合いはないわ。
 案の定私の言い分を全面に受け入れたディミオは、渋い顔をした。
 瞳に光が戻らない辺り、気を抜いたら食われてしまいそうだわ。気をつけないと。

「おれはそれが心配なんだ。おれとはじめて出会った時。ミスティナは、両膝に誰かから殴られたような青あざがあったよね。星空の女神と呼ぶに相応しい美貌が、おれの知らない所で穢されるのは嫌なんだ」
「誰かに加害されぬように、私はツカエミヤを仲間に引き入れたのよ。心配はないわ。ねぇ?ツカエミヤ」
「は、はい!ご、ご安心くださいませ、殿下!私の耳は、どれほど些細な音でも、1km圏内であれば……!」
「1km以上先から攻撃されたら、どうするの」
「1km圏内に入った瞬間から聞こえますので、問題ありません!」
「護衛訓練も受けていない、耳が良いだけの侍女なんて、ミスティナの肉壁にもなれやしない。君にミスティナが守れるわけがないだろ」
「わ、私だってミスティナ様守る肉壁くらいにはなれます……!」
「おれに大口叩いといて、ミスティナの命が奪われるようなことがあったら。どう責任取るつもり?おれは君のこと許さないから。もしもの時は、蘇生魔法の使える奴を、おれの前まで連れてきて貰うよ」
「ひ……っ」

 ディミオとツカエミヤの会話は、前提からして間違っている。
私は彼女に私を守る肉壁になってほしいなど願ったことはないし、死んだあと生き返りたいなどとも思っていない。
 人間は、死んだら終わりだわ。
 二度目の生など、始まらない。
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