真 彩 (まあや)
 暫くの間退屈なスピーチを我慢した後は、料理と酒と新郎新婦の友人たちによるにぎやかな余興で盛会のうちに披露宴はお開きになり、出席者たちはそれぞれ帰り支度を始めた。そんな中で、ひとり俺はきょろきょろと真彩の姿を探していた。すると新婦を囲んだ友人のグループのなかでしばらく喋っていた真彩がそこから1人離れるのが視界に入ったので、偶然見つけた風を装って近づいていった。

「村山さんでしたね。電車でお帰りですか?」
「あ、先程の叔父様。はいそうです。」
「じゃぁ、駅までご一緒してもいいですか。」
「はい、喜んで。」

最寄りの駅まで大した距離ではなかったのでゆっくり歩いて行った。駅の近くまで行くと昔ながらの雰囲気のある喫茶店があった。
「よかったらコーヒーでも飲んでいきませんか。」
「はい、喜んで。」


 店に入って席に着き、オーダーを済ませて顔を見合わせると、またまた真彩はにっこり微笑んだ。それは瞬殺されるほどの威力だったがグッと踏みとどまり、一息ついて平静を装いつつ口を開いた。
「最近の披露宴はサプライズが有ったりして演出がずいぶん派手ですね。」
「ええ、2人共幸せそうで羨ましい。」

「ハネムーンはどこに行くのか聞いてますか?」
「ええ、ハワイだとか言ってましたけど。」
「ふ~ん、なかなか豪勢ですね。」
「一生に一度のことですから、印象に残るハネムーンがいいんじゃないですか。」
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