朝型ちゃんに一目惚れ
「あっ、あれじゃない??」

 さっき通ったクラゲ水槽の端の足元に、クシャクシャになったハンカチが落ちているのを見つける。

 俺が拾い上げてみると、それは白っぽい女性もののハンカチだった。

「…私の、です……」

 そう答えた陽菜ちゃんの声は、顔を見るまでもなく沈んでいる。

 すぐに俺は洗面所の石鹸を付けてなるべく優しく洗って絞ったけれど、陽菜ちゃんの表情が晴れるはずもなかった。


「あっ、星野くんと陽菜ちゃん!」

 仁科の声のあと、みんなが向こうからやってくる。
 俺はすぐに陽菜ちゃんに向かって小さな声でこう言った。

「陽菜ちゃん、みんなに言うの、ちょっと待ってね」

「え?はい……」

 俺は今の数秒で考えついた言い訳をすぐにみんなに言い始めた。

「…ごめんみんな!いやあ見つからなかったよ、俺のハンカチ!」

 なるべく半笑いで、なるべく自然に……

「はあ?カズキの!?陽菜の落とし物かと思ってたんだけど??」

 吉田は首を傾げる。俺は続けた。

「…だって、恥ずかしいでしょ。そうしたら陽菜ちゃんが俺に気付いて、自分のせいにしていいからって一緒に探してくれてさ〜。でも見つからなくてさ~……。申し訳ないけど、手を洗い直した時に陽菜ちゃんが仁科にもらったってハンカチ、俺が借りちゃった」

 勢いよくそうみんなに言うと、次は陽菜ちゃんに向き直る。

「ごめんね陽菜ちゃん、使っちゃったし洗って返すよ~」

 俺はそう、拾った陽菜ちゃんのハンカチを見せながらヘラヘラと笑う。
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