紳士な若頭の危険な狂愛

「美東さん!」

美東さんの真後ろから、私を襲おうとしていた男が酒瓶を美東さんの頭に振り下ろした。

ガシャン!という音がして、私の顔に何かが飛び散った。
目の前にいる美東さんの頭から、頬にかけて血が流れている。
声が出せない私に美東さんは微笑んだ、真っ赤な血が流れたままで。

「てめぇ、美東か!」

殴りかかろうと拳を握った男より、素早く美東さんは拳で男の腹を殴った。
男はくの字になりうめき声を上げて床に倒れたが、必死に床を手で押して身体を起こそうとした。
だがその男の右手に、美東さんは瓶の欠けた部分を躊躇無く突き刺した。

「わぁぁぁ!!」

「全く、女性にそんな汚れた手で触れるだなんて失礼でしょう?
今度からは触れる前の消毒を心がけてくださいね」

テーブルの上にあるまだ開いていないブランデーの瓶を美東さんは開けると、横たわって叫ぶ男の顔に高い位置からブランデーを勢いよくかけた。
優しい笑みのまま何の躊躇もせずに。
立ち上がれず床で暴れる男の周りには、ブランデーの茶色と血の赤が広がっていった。
美東さんは自分が殴られても、男の手を血まみれにしても微笑んだまま表情を変えていない。
怖い、その感情に喉が締まる。
これがヤクザというのモノなのだろうか、それとも美東さんの何かが狂っているのだろうか。
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