いつしか愛は毒になる
ふいに鳴り響いたインターホンに雅也がピクリを眉を動かすと、すぐにインターホンの液晶をのぞき込んだ。

「……誰だ?」

私もゆっくりと顔を上げれば、見知らぬ女性が画面の向こうで微笑んでいる。雅也が応答ボタンを押した。

「はい、どちら様ですか?」


──「朝からすみません。隣に越してきた、河本(こうもと)と申します。引っ越しの御挨拶に参りました」

「わかりました……少々お待ちください」

雅也はそう返事をすると、私を引っ張り上げた。

「ったく、朝っぱらから非常識な女が越してきたもんだ……」

そして雅也は、私のバターで汚れた髪の毛を見て眉間に皺を寄せた。

「早苗、さっさと髪を束ねてこい! 顔を拭くのも忘れるな! 夫婦そろって挨拶しておかないとマンションでどんな噂がたつかわからないからな」

「分かりました……」

雅也が玄関先にゆっくり向かうのを見て、私は洗面台で顔をさっと洗うと、長い黒髪を一つに束ねた。そしてすぐに雅也の一歩後ろで背筋を伸ばした。


──ガチャ

「お待たせしました」

雅也が玄関扉を開ければ、河本と名乗った女性がすぐに頭を下げた。

黒のタイトスカートに上品なシフォンのブラウスを身に着けており、明るめのブラウンの長い髪は綺麗に毛先を巻いてある。そして、くっきりした二重瞼で、同じ女性の私から見ても見惚れてしまうような端正な顔立ちをしている。

「朝のお忙しい時間にすみません、昨晩越してきた河本麗華(こうもとれいか)と申します。つまらないものですが受け取っていただけると……」
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