いつしか愛は毒になる
※※※
(河本麗華か…)

俺は会社に到着すると、先ほど麗華から貰ったばかりの名刺を見ながら唇を持ち上げた。

「このタイミングで……ちょうど良かった……これは使えそうだ」

高坂建設は、複合建設業としては国内大手の企業で、わが社の年間売り上げの4割が高坂建設との取引によるものだ。

高坂建設の高坂社長とは、早苗の父親の代からの付き合いだが、早苗の父が昨年他界してからは、取引の数が少しずつ減ってきていた。

──理由は分かっている。

高坂社長は義理に厚いが所詮はビジネスだ。早苗の父が亡くなってからは目に見えて、うちの会社より他の会社との取引を優先しようと動いているのが、最近、俺は気に入らなかった。

「ここまで、早苗が使えないとはな……」

生まれ育った家が貧しかった俺は、人一倍成功したいと思う気持ちが強かった。そして奨学金で大学を卒業し、この辺りでは誰もが知っているこの新山コーポレーションに入社した俺は、当時、事務員をしていた早苗に目を付けた。

社長の一人娘として何不自由なく、男の免疫もなく育った早苗を口説き落とすのに時間はかからなかった。そして俺は、二年の交際を経て、早苗と結婚を機に新山家に養子に入ったのだ。

「まったく……妻があの引っ込み思案で能無しの女では、仕事において何のメリットもなかったな……」

──コンコンッ

「どうぞ」

俺の返事と共にあまい香水の香りとコーヒーの香りが充満する。扉から入ってきた、秘書の小林杏子(こばやしきょうこ)が綺麗な二重瞼を細めた。
< 9 / 60 >

この作品をシェア

pagetop